大腿骨頚部骨折と後遺障害等級|人工骨頭置換術で10級?弁護士解説
「大腿骨頚部骨折」は、骨粗鬆症を有するご高齢の方に生じることが多いとされており、典型的には転倒などで生じるほか、軽微な外傷すら伴わない不顕性骨折というものもあるようです。また、若年者でも高エネルギー外傷で生じることがあるとされています。
つまり、ご高齢の方が徒歩や自転車などで事故に遭われた場合には、この傷病が生じる可能性が非常に高いということができます。
そして、この傷病(特にご高齢者の場合)に対しては「人工骨頭置換術」という手術がよい適応であるとされており、実際に私も、その手術を受けた患者様のご相談を数多くお伺いしてきました。
さて、この「人工骨頭置換術」ですが、自賠責保険・労災保険の後遺障害等級認定に深く関連しています。(こちらの解説記事とも関連しますので、よろしければ併せてご覧ください。)
具体的には以下のとおりです。
■ 自賠責保険:1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの(第10級11号)
■ 労災保険:1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの(第10級の10)
自賠責保険と労災保険の等級表には、上記の文言が記載されています。もっとも、それらが具体的にどのような状態を指すのかということは、さらに詳しい解説(いわゆる青本や障害認定必携)を調べなければ分かりません。この点、それぞれの解説・注釈には、以下のように記載されています。
[自賠責保険]
①関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの、及び、②人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節の可動域が健側の1/2を超えるもの が該当する。
[労災保険]
「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは、次のいずれかに該当するものをいう。
a 関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
b 人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち、上記(イ)のc以外のもの
※(イ)のcには「人工関節・人工骨頭をそう入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの」と記載されています。
いかがでしょうか。
上記の文章を読んでいただいて、何を言っているのか意味が分かりましたか?
普段からこのような言い回しの資料に慣れている弁護士であっても、パッと見ただけではなかなか頭に入ってきません。私も最初は「結局何を言ってるの?」と混乱してしまい、どのようにして現実の患者様に当てはめればよいのか、かなり悩んだ時期がありました。
自賠責保険の場合は、「健側の1/2を超える」という、国語の授業であれば怒られそうな、矛盾表現的で理解しづらい文言が使われています。
労災保険に至っては、「のうち、上記(イ)のc以外のもの」として、わざわざ他の記述を読んで確認しなければならない構造となっており、さらに、参照先を読んだ上で「それ以外」と考えると、「その可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの以外のもの」というメチャクチャな文章になってしまい、もう何が何やら分からない・・・といったように、こちらもレポート・論文やプレゼン資料などであれば大変よろしくない悪文になっています。
ここで端的に正解を発表しますと、上記はいずれも
『人工骨頭置換術が行われれば、
それだけで少なくとも10級』
ということを意味しています。
要するに、大腿骨頚部骨折が発生し、人工骨頭置換術が行われた場合、全く可動域制限や疼痛などの症状が残存していなくても、自賠責保険や労災保険では10級という高い後遺障害等級が認定されるのです。(可動域制限の度合い次第では、8級の可能性もあります。)
この点、前記の認定条件を漫然と読んでいると、何らかの可動域制限がなければ等級に該当しないかのように見えてしまう可能性があります。
そうしますと、「幸い、リハビリをしたので健康な足と同じように動かせるし、痛くもないから、『後遺障害』には該当しないだろう」と患者様が自己判断をしてしまう不幸なケースも起き得るため、ご相談にあたる弁護士としてはよく注意をしなければなりません。
たとえば私共であれば、長い間日常的に交通事故・後遺障害事案に取り組み訓練されていますので、「大腿骨骨折」という傷病名を聞いただけで、反射的に「骨折部位は頚部か?その他の骨幹部などか?」「人工骨頭置換術は施行されているか?」というチェックポイントが連想できるようになっています。
交通事故や労災事故に遭われ、人工骨頭置換術を受けた患者様(被害者様)におかれましては、是非ともこの記事の内容をご覧いただき、ご自身の後遺障害等級認定の機会を逃さないようお気をつけください。また、冒頭でも触れたとおり、大腿骨頚部骨折はご高齢の方に好発の傷病であるため、周囲のご家族・介助者様などにも知っておいてほしい知識となります。
今回は、以前に解説した10級の後遺障害等級の中から、人工骨頭置換術に関連する部分を深掘りして解説いたしました。少しでもみなさまのお役に立てば幸いです。
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この記事の執筆者
弁護士 共同代表 山下 南望(やました みなも)
所属弁護士会 第二東京弁護士会
登録番号 47576
経歴
1995年 中央大学付属高校卒業 中央大学法学部入学
2011年 首都大学東京法科大学院修了
2011年 司法研修所入所(65期)
2012年 弁護士登録
2015年 「せせらぎ法律事務所東京立川支所」を開設
