交通事故による高次脳機能障害とは?症状や後遺障害認定の基準について解説!
2024.06.04更新
目次
交通事故で頭部に衝撃が加わり、脳が損傷すると「高次脳機能障害」と呼ばれる後遺障害が残ることがあります。高次脳機能障害は、注意障害、記憶障害、遂行機能障害、言語障害などさまざまな症状が生じますので、日常生活にも大きな支障が生じてしまいます。
被害者やそのご家族に生じる負担を少しでも軽減するには、適正な後遺障害等級の認定を受け、十分な賠償金を獲得することが重要です。
本コラムでは、交通事故による高次脳機能障害の認定基準や後遺障害認定のポイントなどについてわかりやすく解説します。
高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは、どのような症状なのでしょうか。以下では、高次脳機能障害の基本事項と代表的な症状を説明します。
高次脳機能障害の基本事項
高次脳機能障害とは、交通事故などにより脳を損傷したことで、言語・思考・記憶・学習・注意などの認知機能全般に障害が生じる症状をいいます。
高次脳機能障害は、外見上は事故前と変化がないため、症状が発見されにくく、障害があることに気付かれないこともあります。適正な後遺障害認定を受けるためには、早期に高次脳機能障害の検査・治療を行うことが重要となりますので、ご家族の方がしっかりとサポートしてあげましょう。
代表的な高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害の代表的な症状としては、以下の7つが挙げられます。
注意障害
注意障害とは、1つのことに集中できず、気が散りやすくなる状態をいいます。具体的な症状としては、以下のようなものがあります。
- 作業を長時間続けられない
- 複数のことを同時に行えない
- すぐに疲れてしまう(易疲労性)
記憶障害
記憶障害とは、事故前の記憶を喪失してしまったり、事故後の情報を覚えることができなくなる状態をいいます。具体的な症状としては、以下のようなものがあります。
- 物をどこに置いたか忘れてしまう
- 新しいことを覚えられない
- 何度も同じ質問を繰り返す
遂行機能障害
遂行機能障害とは、物事や行動を計画できなくなったり、計画できても計画通り行動できない状態をいいます。具体的な症状としては、以下のようなものがあります。
- 計画に従って行動ができない
- 他人からの指示がないと行動できない
- 物事や行動の優先順位が付けられない
- 話がまわりくどく、要点を相手に伝えることができない(話の内容が変わりやすい)
社会的行動障害
社会的行動障害とは、感情のコントロールが難しくなるなどして、社会に適応できなくなる状態をいいます。具体的な症状としては、以下のようなものがあります。
- 怒りっぽくなる(易怒性)
- 意欲がわかない
- 相手との距離感がとれない
- 1つのことに異常にこだわりやすくなる
言語障害(失語)
言語障害とは、言葉を理解できなくなったり、言葉を発しにくいなど差し支えが出る状態をいいます。具体的な症状としては、以下のようなものがあります。
- 言いたい言葉がでない
- 他人が言っている言葉の意味がわからない
- 文字を読んでも意味がわからない
失認障害
失認障害とは、物事を認識したり、理解することができなくなる状態を言います。具体的な症状としては、以下のようなものがあります。
- 人の顔を区別できない
- いつも通る道で迷う
- 知っているはずのものでも、何を触っているのかがわからない
病識の低下
病識の低下とは、自分の障害についての認識が低下する状態をいいます。具体的な症状としては、以下のようなものがあります。
- 周囲に治療をすすめられても拒否する
- 自分には障害はないと思い込む
- 障害がないかのようにふるまう
高次脳機能障害の後遺障害等級認定
交通事故により上記のような症状があらわれた場合、高次脳機能障害として後遺障害等級認定を受けられる可能性があります。以下では、高次脳機能障害の後遺障害等級の認定基準を説明します。
後遺障害とは
交通事故による怪我の治療を続けても、完治せずに何らかの症状が残ってしまうことがあります。このような状態を「後遺障害」といいます。
交通事故により後遺障害が残ってしまった場合には、後遺障害認定の申請を行うことで、症状に応じた等級認定を受けることができる可能性があります。後遺障害等級認定を受けられれば、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益を請求することができますので、適正な等級認定を受けることが重要となります。
高次脳機能障害の後遺障害等級の認定基準
高次脳機能障害の後遺障害の認定基準は、介護の要否と以下の4能力に関する支障の程度により判断されます(労災保険の認定基準)。
①意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力など)
②問題解決能力(理解力、判断力など)
③作業負荷に対する持続力・持久力
④社会行動能力(協調性など)
高次脳機能障害の症状に応じた具体的な認定基準は、以下のようになります。
1級1号(要介護)
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、常に他人の介護を要するもの
[自賠責保険の補足的な考え方]
身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの
2級1号(要介護)
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの
[自賠責保険の補足的な考え方]
著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの
3級3号
生命維持に必要な身のまわりの処理の動作はできるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないものであり、以下のいずれかに該当するもの
- 4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の大部分が失われているもの
[自賠責保険の補足的な考え方]
自宅周辺を一人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの
5級2号
高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないものであり、以下のいずれかに該当するもの
- 4能力のいずれか1つ以上の能力の大部分が失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの
[自賠責保険の補足的な考え方]
単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの
7級4号
高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないものであり、以下のいずれかに該当するもの
- 4能力のいずれか1つ以上の能力の半分程度が失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの
[自賠責保険の補足的な考え方]
一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの
9級10号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるものであって、4能力のいずれか1つ以上の能力の相当程度が失われているもの
[自賠責保険の補足的な考え方]
一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの
12級13号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すものであって、4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているもの
14級9号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すものであって、MRI・CTなどで他覚的所見が認められないものの、脳損傷があることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のため、わずかに能力喪失が認められるもの
高次脳機能障害の後遺障害慰謝料の相場
高次脳機能障害で後遺障害等級認定を受けた場合には、後遺障害慰謝料が支払われます。後遺障害慰謝料の相場は、認定された等級に応じて以下のようになっています。
等級 | 後遺障害慰謝料の相場 | |
---|---|---|
自賠責基準 | 弁護士基準 | |
1級1号 | 1650万円 | 2800万円 |
2級1号 | 1203万円 | 2370万円 |
3級3号 | 861万円 | 1990万円 |
5級2号 | 618万円 | 1400万円 |
7級4号 | 419万円 | 1000万円 |
9級10号 | 249万円 | 690万円 |
12級13号 | 94万円 | 290万円 |
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
交通事故の慰謝料の算定基準には、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)の3種類があります。上記のとおり、自賠責基準と弁護士基準とでは、2~3倍程度慰謝料額に差がありますので、より多くの慰謝料の支払いを受けるには、弁護士基準での算定が必要といえるでしょう。
弁護士基準により算定した慰謝料を請求するには、弁護士への依頼が不可欠となりますので、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
高次脳機能障害と認定されるためのポイント
高次脳機能障害は、外見上は目立った変化がないため、障害があるにもかかわらず、気付かずに見落とされてしまうケースもあります。そのため、高次脳機能障害による後遺障害認定を受けるには、以下のポイントを押さえておきましょう。
交通外傷による脳の受傷を裏づける画像検査結果があること
高次脳機能障害による後遺障害認定を受けるためには、MRIやCTなどにより脳損傷が確認できる必要があります。
事故から時間が経ってから検査をしても、事故との因果関係を否定される可能性もありますので、事故直後にMRIやCTなどの検査を行うことが大切です。
事故後に一定期間の意識障害が継続したこと
交通事故よる頭部外傷後に意識障害が存在することも、高次機能障害による後遺障害認定のポイントの1つとなります。
- 当初の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3~2桁、GCSが12点以下)が少なくとも6時間以上継続した
- 健忘あるいは軽度意識障害(JCSが1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上継続した
などの基準を満たせば、意識障害が認定される可能性があるといえるでしょう。
認知障害・行動障害・人格変化(一定の異常な傾向)が生じていること
高次脳機能障害は、症状の内容や程度によって認定される等級が異なります。そのため、被害者の症状については、主治医の意見書や家族による日常生活状況報告によって明らかにしていく必要があります。
被害者の性格の変化などは普段から一緒に生活している人にしかわかりませんので、家族とは定期的にコミュニケーションをとっておくことが大切です。
まとめ
高次脳機能障害による後遺障害申請は、認定基準のポイントを踏まえて行わなければ、適正な等級認定を受けることができません。高次脳機能障害が残ると、日常生活にも多大な支障が生じますので、適正な賠償金を獲得することが重要です。
そのためには、交通事故に詳しい弁護士のサポートが必要になりますので、交通事故の被害に遭われた方は、弁護士法人せせらぎ法律事務所東京立川支所までお気軽にご相談ください。
投稿者: