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交通事故による高次脳機能障害とは?症状や後遺障害認定の基準について解説!

2024.06.04更新

交通事故による高次脳機能障害とは?症状や後遺障害認定の基準について解説!

交通事故で頭部に衝撃が加わり、脳が損傷すると「高次脳機能障害」と呼ばれる後遺障害が残ることがあります。高次脳機能障害は、注意障害、記憶障害、遂行機能障害、言語障害などさまざまな症状が生じますので、日常生活にも大きな支障が生じてしまいます。
被害者やそのご家族に生じる負担を少しでも軽減するには、適正な後遺障害等級の認定を受け、十分な賠償金を獲得することが重要です。
本コラムでは、交通事故による高次脳機能障害の認定基準や後遺障害認定のポイントなどについてわかりやすく解説します。

高次脳機能障害とは

高次脳機能障害とは、どのような症状なのでしょうか。以下では、高次脳機能障害の基本事項と代表的な症状を説明します。

高次脳機能障害の基本事項

高次脳機能障害とは、交通事故などにより脳を損傷したことで、言語・思考・記憶・学習・注意などの認知機能全般に障害が生じる症状をいいます。
高次脳機能障害は、外見上は事故前と変化がないため、症状が発見されにくく、障害があることに気付かれないこともあります。適正な後遺障害認定を受けるためには、早期に高次脳機能障害の検査・治療を行うことが重要となりますので、ご家族の方がしっかりとサポートしてあげましょう。

代表的な高次脳機能障害の症状

高次脳機能障害の代表的な症状としては、以下の7つが挙げられます。

注意障害

注意障害とは、1つのことに集中できず、気が散りやすくなる状態をいいます。具体的な症状としては、以下のようなものがあります。

  • 作業を長時間続けられない
  • 複数のことを同時に行えない
  • すぐに疲れてしまう(易疲労性)

記憶障害

記憶障害とは、事故前の記憶を喪失してしまったり、事故後の情報を覚えることができなくなる状態をいいます。具体的な症状としては、以下のようなものがあります。

  • 物をどこに置いたか忘れてしまう
  • 新しいことを覚えられない
  • 何度も同じ質問を繰り返す

遂行機能障害

遂行機能障害とは、物事や行動を計画できなくなったり、計画できても計画通り行動できない状態をいいます。具体的な症状としては、以下のようなものがあります。

  • 計画に従って行動ができない
  • 他人からの指示がないと行動できない
  • 物事や行動の優先順位が付けられない
  • 話がまわりくどく、要点を相手に伝えることができない(話の内容が変わりやすい)

社会的行動障害

社会的行動障害とは、感情のコントロールが難しくなるなどして、社会に適応できなくなる状態をいいます。具体的な症状としては、以下のようなものがあります。

  • 怒りっぽくなる(易怒性)
  • 意欲がわかない
  • 相手との距離感がとれない
  • 1つのことに異常にこだわりやすくなる

言語障害(失語)

言語障害とは、言葉を理解できなくなったり、言葉を発しにくいなど差し支えが出る状態をいいます。具体的な症状としては、以下のようなものがあります。

  • 言いたい言葉がでない
  • 他人が言っている言葉の意味がわからない
  • 文字を読んでも意味がわからない

失認障害

失認障害とは、物事を認識したり、理解することができなくなる状態を言います。具体的な症状としては、以下のようなものがあります。

  • 人の顔を区別できない
  • いつも通る道で迷う
  • 知っているはずのものでも、何を触っているのかがわからない

病識の低下

病識の低下とは、自分の障害についての認識が低下する状態をいいます。具体的な症状としては、以下のようなものがあります。

  • 周囲に治療をすすめられても拒否する
  • 自分には障害はないと思い込む
  • 障害がないかのようにふるまう

高次脳機能障害の後遺障害等級認定

交通事故により上記のような症状があらわれた場合、高次脳機能障害として後遺障害等級認定を受けられる可能性があります。以下では、高次脳機能障害の後遺障害等級の認定基準を説明します。

後遺障害とは

交通事故による怪我の治療を続けても、完治せずに何らかの症状が残ってしまうことがあります。このような状態を「後遺障害」といいます。
交通事故により後遺障害が残ってしまった場合には、後遺障害認定の申請を行うことで、症状に応じた等級認定を受けることができる可能性があります。後遺障害等級認定を受けられれば、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益を請求することができますので、適正な等級認定を受けることが重要となります。

高次脳機能障害の後遺障害等級の認定基準

高次脳機能障害の後遺障害の認定基準は、介護の要否と以下の4能力に関する支障の程度により判断されます(労災保険の認定基準)。

①意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力など)
②問題解決能力(理解力、判断力など)
③作業負荷に対する持続力・持久力
④社会行動能力(協調性など)

高次脳機能障害の症状に応じた具体的な認定基準は、以下のようになります。

1級1号(要介護)

高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、常に他人の介護を要するもの
[自賠責保険の補足的な考え方]
身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの

2級1号(要介護)

高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの
[自賠責保険の補足的な考え方]
著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの

3級3号

生命維持に必要な身のまわりの処理の動作はできるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないものであり、以下のいずれかに該当するもの

  • 4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの
  • 4能力のいずれか2つ以上の能力の大部分が失われているもの

[自賠責保険の補足的な考え方]
自宅周辺を一人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの

5級2号

高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないものであり、以下のいずれかに該当するもの

  • 4能力のいずれか1つ以上の能力の大部分が失われているもの
  • 4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの

[自賠責保険の補足的な考え方]
単純くり返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの

7級4号

高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないものであり、以下のいずれかに該当するもの

  • 4能力のいずれか1つ以上の能力の半分程度が失われているもの
  • 4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの

[自賠責保険の補足的な考え方]
一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの

9級10号

通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるものであって、4能力のいずれか1つ以上の能力の相当程度が失われているもの
[自賠責保険の補足的な考え方]
一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの

12級13号

通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すものであって、4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているもの

14級9号

通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すものであって、MRI・CTなどで他覚的所見が認められないものの、脳損傷があることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のため、わずかに能力喪失が認められるもの

高次脳機能障害の後遺障害慰謝料の相場

高次脳機能障害で後遺障害等級認定を受けた場合には、後遺障害慰謝料が支払われます。後遺障害慰謝料の相場は、認定された等級に応じて以下のようになっています。

等級 後遺障害慰謝料の相場
自賠責基準 弁護士基準
1級1号 1650万円 2800万円
2級1号 1203万円 2370万円
3級3号 861万円 1990万円
5級2号 618万円 1400万円
7級4号 419万円 1000万円
9級10号 249万円 690万円
12級13号 94万円 290万円
14級9号 32万円 110万円

交通事故の慰謝料の算定基準には、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)の3種類があります。上記のとおり、自賠責基準と弁護士基準とでは、2~3倍程度慰謝料額に差がありますので、より多くの慰謝料の支払いを受けるには、弁護士基準での算定が必要といえるでしょう。
弁護士基準により算定した慰謝料を請求するには、弁護士への依頼が不可欠となりますので、早めに弁護士に相談するようにしましょう。

高次脳機能障害と認定されるためのポイント

高次脳機能障害は、外見上は目立った変化がないため、障害があるにもかかわらず、気付かずに見落とされてしまうケースもあります。そのため、高次脳機能障害による後遺障害認定を受けるには、以下のポイントを押さえておきましょう。

交通外傷による脳の受傷を裏づける画像検査結果があること

高次脳機能障害による後遺障害認定を受けるためには、MRIやCTなどにより脳損傷が確認できる必要があります。
事故から時間が経ってから検査をしても、事故との因果関係を否定される可能性もありますので、事故直後にMRIやCTなどの検査を行うことが大切です。

事故後に一定期間の意識障害が継続したこと

交通事故よる頭部外傷後に意識障害が存在することも、高次機能障害による後遺障害認定のポイントの1つとなります。

  • 当初の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3~2桁、GCSが12点以下)が少なくとも6時間以上継続した
  • 健忘あるいは軽度意識障害(JCSが1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上継続した

などの基準を満たせば、意識障害が認定される可能性があるといえるでしょう。

認知障害・行動障害・人格変化(一定の異常な傾向)が生じていること

高次脳機能障害は、症状の内容や程度によって認定される等級が異なります。そのため、被害者の症状については、主治医の意見書や家族による日常生活状況報告によって明らかにしていく必要があります。
被害者の性格の変化などは普段から一緒に生活している人にしかわかりませんので、家族とは定期的にコミュニケーションをとっておくことが大切です。

まとめ

高次脳機能障害による後遺障害申請は、認定基準のポイントを踏まえて行わなければ、適正な等級認定を受けることができません。高次脳機能障害が残ると、日常生活にも多大な支障が生じますので、適正な賠償金を獲得することが重要です。
そのためには、交通事故に詳しい弁護士のサポートが必要になりますので、交通事故の被害に遭われた方は、弁護士法人せせらぎ法律事務所東京立川支所までお気軽にご相談ください。

投稿者: せせらぎ法律事務所

後遺障害10級とは?認定基準や慰謝料の相場、逸失利益について弁護士が解説!

2024.06.04更新

後遺障害10級とは?認定基準や慰謝料の相場、逸失利益について弁護士が解説!

交通事故により後遺症が残ってしまった場合には、後遺障害申請手続きを行うことで、症状の内容や程度に応じた後遺障害等級認定を受けられる可能性があります。
後遺障害申請手続きでは、具体的な症状に応じて後遺障害の認定基準が定められていますので、適正な後遺障害認定を受けるためには、症状ごとの認定基準を理解しておくことが大切です。
本コラムでは、後遺障害10級の症状と認定基準、後遺障害10級が認定された場合の慰謝料相場や逸失利益の計算方法についてわかりやすく解説します。

後遺障害10級とは

後遺障害10級は、どのような場合に認定されるのでしょうか。以下では、後遺障害10級の基本事項と認定基準を説明します。

後遺障害10級の基本事項

交通事故により後遺症が残ってしまった場合には、一定の基準を満たせば後遺障害が認定されます。後遺障害の等級は、1級から14級まで分かれており、数字が小さくなるほど重い後遺障害になります。
後遺障害10級は、症状に応じてさらに11種類(1号から11号)に分かれていますので、適正な後遺障害認定を受けるためにも、症状に応じた認定基準をしっかりと押さえておきましょう。

後遺障害10級の認定基準

後遺障害10級の認定基準を症状ごとにまとめると、以下の表のようになります。

後遺障害10級の認定基準
等級 認定基準
1号 1眼の視力が0.1以下になったもの
2号 正面を見た場合に複視の症状を残すもの
3号 咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの
4号 14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
5号 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
6号 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
7号 1手のおや指又はおや指以外の2の手指の用を廃したもの
8号 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの
9号 1足の第1の足指又は他の4の足指を失ったもの
10号 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
11号 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

後遺障害10級が認められる症状

後遺障害10級の認定基準は、1号から11号までの症状に応じて、さらに細かい認定基準が定められています。以下では、症状ごとの具体的な認定基準を説明します。

後遺障害10級1号|1眼の視力が0.1以下になったもの

片目の矯正視力(眼鏡やコンタクトレンズを付けた状態の視力)が0.1以下になった状態をいいます。測定方法は、視力検査で一般的に用いられる万国式試視力表により行います。

後遺障害10級2号|正面を見た場合に複視の症状を残すもの

複視とは、以下のいずれにも該当する症状をいいます。

  • 本人が複視のあることを自覚していること
  • 眼筋の麻痺など複視を残す明らかな原因が認められること
  • へスクリーンテストにより患側の像が水平方向または垂直方向の目盛りで5度以上離れた位置にあることが確認されること

このような複視の症状があるもののうち、へスクリーンテストにより正面視で複視が中心の位置にあることが確認されたものが後遺障害10級2号になります。正面以外の複視の場合は13級2号が認定されます。
複視の認定には、被害者の自覚症状も含まれていますので、正面を見て複視が生じている場合には、医師にはっきりとその旨を伝えるようにしましょう。

後遺障害10級3号|咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの

咀嚼機能に障害を残すものとは、固形食物の中に咀嚼ができないものがあることまたは咀嚼が十分にできないものがあり、そのことが医学的に確認できる場合をいいます。
具体的には、ごはん、煮魚、ハムなどは咀嚼できるものの、たくあん、らっきょう、ピーナッツなどの一定の固さのある食物の中に咀嚼できないものがあることまたは咀嚼が十分にできないものがあるなどの場合をいいます。
言語の機能に障害を残すものとは、以下の4種の語音のうち、1種の発音不能があるものをいいます。

  • 口唇音(ま行、ぱ行、ば行、わ行、ふ)
  • 歯舌音(な行、た行、だ行、ら行、さ行、しゅ、し、ざ行、じゅ)
  • 口蓋音(か行、が行、や行、ひ、にゅ、ぎゅ、ん)
  • 喉頭音(は行)

言語機能に障害を感じたときは、言語聴覚士が在籍している医療機関を受診するようにしましょう。

後遺障害10級4号|14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの

歯科補綴とは、抜けた歯や著しく欠損した歯に対し、入れ歯、ブリッジ、クラウン、インプラントなどで補綴することをいいます。交通事故により、14本以上の歯に歯科補綴を加えた場合には、後遺障害10級4号が認定されます。

後遺障害10級5号|両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの

  • 両耳の平均純音聴力レベル(どこまで小さな音を聞き取れるかの程度)が50㏈以上のもの
  • 両耳の平均純音聴力レベルが40㏈以上でありかつ最高明瞭度が70%以下のもの

上記のいずれかに該当する場合には、後遺障害10級5号が認定されます。

後遺障害10級6号|1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの

片耳の平均純音聴力レベルが80㏈以上90㏈未満となる状態をいいます。

後遺障害10級7号|1手のおや指又はおや指以外の2の手指の用を廃したもの

手指の用を廃するとは、以下のいずれかに該当する状態をいいます。

  • 手指の末節骨の長さの2分の1以上を失ったもの
  • 中手指節関節または近位指節間関節(おや指の場合は指節間関節)の可動域が健側の2分の1以下に制限されるもの
  • 親指について橈側外転または掌側外転のいずれかが健側の2分の1以下に制限されているもの
  • 手指の末節の指腹部および側部の深部感覚および表在感覚が完全に脱失した場合

後遺障害10級8号|1下肢を3センチメートル以上短縮したもの

上前腸骨棘と下腿内果下端間の長さを健側と比較して3センチメートル以上短くなっている場合には、後遺障害10級8号が認定されます。

後遺障害10級9号|1足の第1の足指又は他の4の足指を失ったもの

足指を失ったものとは、中足指節関節(足指の根本)から先を失った状態をいいます。

後遺障害10級10号|1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

上肢の3大関節とは、肩・ひじ・手の関節をいいます。関節の機能に著しい障害を残すものとは以下のいずれかに該当するものをいいます。

  • 関節の可動域が健康な側の関節の2分の1以下に制限されているもの
  • 人工関節、人工骨頭を挿入置換した関節のうち、可動域が健康な側の関節の2分の1以下に制限されていないもの

後遺障害10級11号|1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

下肢の3大関節とは、股、膝、足の関節をいいます。関節の機能に著しい障害を残すものとは以下のいずれかに該当するものをいいます。

  • 関節の可動域が健康な側の関節の可動域の2分の1以下に制限されているもの
  • 人工関節、人工骨頭を挿入置換した関節のうち、可動域が健康な側の関節の2分の1以下に制限されていないもの

後遺障害10級の慰謝料の相場

後遺障害慰謝料の算定基準には、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準(裁判基準)の3種類があります。以下では、後遺障害10級が認定された場合の各算定基準における後遺障害慰謝料の相場を説明します。

自賠責基準

自賠責基準とは、加害者が加入する自賠責保険から後遺障害慰謝料が支払われる場合の基準で、最低限の補償となっています。
後遺障害10級が認定された場合の慰謝料は、190万円と定められています。

任意保険基準

任意保険基準とは、加害者が加入する任意保険から後遺障害慰謝料が支払われる場合の基準です。任意保険基準は、一般に公開されていませんので、詳細な金額は不明ですが、自賠責基準と同程度か若干上乗せされた程度の金額になります。

弁護士基準(裁判基準)

弁護士基準とは、過去の裁判例などを踏まえて基準化されたもので、裁判になった場合や弁護士が示談交渉等で用いる基準になります。3つの算定基準の中では最も慰謝料が高額になる基準です。
後遺障害10級が認定された場合には、550万円が弁護士基準(裁判基準)の相場です。

後遺障害10級の逸失利益

逸失利益とは、交通事故により後遺障害が残らなければ将来得られたはずの利益をいいます。以下では、後遺障害10級が認定された場合の逸失利益について説明します。

後遺障害10級の逸失利益の計算方法

逸失利益は、以下のような計算式より算出します。

逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数

①基礎収入

基礎収入とは、基本的には事故前1年間の収入をいいます。
サラリーマンであれば事故前年の源泉徴収票もしくは所得証明書の総収入額が基礎収入になります。収入のない主婦(主夫)であっても家事労働をしていますので、賃金センサスの女性労働者の全年齢平均(産業計・企業規模計・学歴計)が基礎収入になります。

②労働能力喪失率

労働能力喪失率とは、後遺障害により低下した労働能力を数値であらわしたものになります。労働能力喪失率は、後遺障害等級ごとに決められており、後遺障害10級の場合は、27%が労働能力喪失率となります。

③労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数

労働能力喪失期間とは、後遺障害により労働能力が失われる期間のことをいいます。原則として症状固定年齢から67歳までの年数が労働能力喪失期間になりますが、以下のような例外もあります。

  • 18歳未満の子ども……18歳から67歳までの年数
  • 大学生……大学卒業時から67歳までの年数
  • 67歳までの期間が短い人……67歳までの年数と平均余命の2分の1の年数のうち長い方
  • 67歳を超える高齢者……平均余命の2分の1の年数

ライプニッツ係数とは、逸失利益が一括で支払われることで発生する利息(中間利息)を控除するための数値で、国土交通省のサイト[y1] により確認することができます。

後遺障害10級の逸失利益が認められない場合

後遺障害10級の労働能力喪失率は、27%とされていますが、これはあくまでも一般的な基準にすぎません。実際には、後遺障害の内容・程度、被害者の職業、業務に与える影響などを踏まえて総合的に判断されます。
そのため、後遺障害10級が認定されたとしても、実際に仕事に影響が生じていない場合には、逸失利益が認められない可能性があります。
また、逸失利益は、将来の減収分を補填する賠償項目になりますので、事故前から収入のない人には、逸失利益は認められません。ただし、無職の場合でも労働能力と労働意欲があり、就労の蓋然性がある場合には、逸失利益が認められる可能性もあります。

まとめ

後遺障害等級が認定されると後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求することができますので、被害者に支払われる賠償額は大幅に増えることになります。後遺障害等級に応じて、賠償額が変わるため、より多くの賠償額の支払いを受けるためには、適正な等級認定を受けることが重要です。
後遺障害等級は、具体的な症状に応じて認定基準が定められていますので、適正な等級認定を受けるには、交通事故に詳しい弁護士によるサポートが必要になります。交通事故の被害に遭われた方は、弁護士法人せせらぎ法律事務所東京立川支所までお気軽にご相談ください。

投稿者: せせらぎ法律事務所

醜状痕とは?交通事故による醜状の後遺障害や等級認定について解説!

2024.06.04更新

醜状痕とは?交通事故による醜状の後遺障害や等級認定について解説!

交通事故で「醜状痕(しゅうじょうこん)」すなわち傷跡が残ってしまう場合があります。顔面はもちろん、腕や足であっても、傷跡が残ると日常生活だけでなく仕事にも影響を及ぼすケースがあるでしょう。
一定の大きさの醜状痕については、後遺障害の認定対象になります。ただし、思ったように等級が認定されなかったり、逸失利益を否定されたりするケースが少なくありません。
この記事では、交通事故による醜状痕で認定される後遺障害等級や、認定のポイントなどについて解説しています。

醜状痕とは

醜状痕とは、ケガやヤケドを原因とする傷跡が、消えずに残ったものです。交通事故による醜状痕は、程度によっては「醜状障害」として後遺障害の認定対象になります。
かつては男女で基準が異なっていましたが、現在は同一の認定基準で判断されます。

醜状痕が認定される部位

醜状痕による後遺障害が規定されている部位としては、外貌と上肢・下肢の露出面です。

・外貌

外貌とは、腕や足以外で、頭・顔面・首といった日常的に露出している部分のことです。
交通事故により外貌に人目につく傷跡が残ってしまうと、精神的ショックが大きく、場合によっては、仕事にも影響が生じる可能性もあります。そのため、「外貌醜状」と呼ばれる後遺障害の認定対象となっています。

・上肢・下肢の露出面

上肢の露出面は上腕から指先までを指し、下肢の露出面は太腿から足の背(足の甲)までを指します。
上肢や下肢の露出面の傷跡も、交通事故における後遺障害の認定対象です。

外貌醜状の程度と認定される可能性のある後遺障害等級

外貌醜状については、以下の後遺障害等級が認定される可能性があります。

7級12号 外貌に著しい醜状を残すもの
9級16号 外貌に相当程度の醜状を残すもの
12級14号 外貌に醜状を残すもの

醜状の程度によって認定される等級が変わります。具体的なルールをそれぞれ詳しく見ていきます。

外貌の著しい醜状

7級12号の「著しい醜状」とは、以下のいずれかをいいます。

  • 頭部:「手のひら大(指の部分は含まない)以上の瘢痕」または「頭蓋骨の手のひら大以上の欠損」
  • 顔面部:「鶏卵大面以上の瘢痕」または「10円銅貨大以上の組織陥凹」
  • 頸部(首):手のひら大以上の瘢痕
  • 「手のひら大」とは、指の部分を除いた手のひらの大きさです。本人の手のひらを基準にします。

    「瘢痕」は、簡単に言うと傷跡のことです。

    外貌に相当程度の醜状

    9級16号の「相当程度の醜状」とは、長さ5cm以上の線状痕を指します。
    線状の傷跡であり面積としては大きくなく、「著しい醜状」よりは下位の等級とされています。

    外貌に単なる醜状

    12級14号の「醜状」とは、以下のいずれかで人目につく程度以上のものをいいます。

    • 頭部:「鶏卵大面以上の瘢痕」または「頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損」
    • 顔面部:「10円銅貨大以上の瘢痕」または「長さ3cm以上の線状痕」
    • 頸部(首):鶏卵大面以上の瘢痕

    大きさとしては少し小さくなりますが、他人からわかってしまう傷跡です。

    外貌醜状の等級を判断するルール

    外貌醜状の認定基準は大まかに上記の通りですが、いくつか細かいルールがあります。

    ・人目につく程度以上のものであること

    いずれの等級についても、傷跡が人目につく程度以上のものである必要があります。眉毛や髪の毛に隠れており、他人から見えづらい傷跡では等級は認定されません。

    ・醜状に含まれる範囲

    認定の対象になるのは、事故により直接生じた傷跡に限られません。事故の治療過程で生じた手術の痕や、ヤケドが治った後の色素沈着による変色や色素脱出による白斑なども、人目につく程度以上のものであれば対象になります。

    ・2つ以上の傷跡がある場合

    複数の傷跡があり、隣接するなどしていて遠目から見て1つの醜状と判断できる場合には、面積や長さを合計して等級を判定します。たとえば、顔面に長さ2cmの線状痕が2つ隣接していて1つの傷跡と同様だと評価できるときには、「長さ3cm以上の線状痕」として12級14号を認定できます。

    眼・耳・鼻の欠損障害と醜状障害の関係

    交通事故により眼(まぶた)・耳・鼻が欠けてしまうことを「欠損障害」といいます。欠損障害と醜状障害のいずれにも該当する場合には、双方の等級を比較して上位の等級が認定されます。

    ・耳

    耳の場合、耳介の軟骨部の1/2以上が欠けると、耳介の欠損障害としては12級4号ですが、同時に「著しい醜状」として7級12号にも該当するため、上位等級の7級が認定されます。また、耳介の軟骨部の一部が欠けたに過ぎず耳介の欠損障害を認定できなくても、「(単なる)醜状」として12級14号の認定が可能です

    ・鼻

    鼻については、軟骨部の全部または大部分が欠け鼻呼吸困難または嗅覚脱失などの症状があると、鼻の障害としては9級5号ですが、同時に「著しい醜状」として7級12号に該当します。鼻の一部が欠けたときには、鼻の障害を認定できなくても、「(単なる)醜状」として12級14号の認定が可能です。

    ・眼

    眼(まぶた)については、両目のまぶたに著しい欠損を残すときには9級4号、片目のまぶたに著しい欠損を残すときには11級3号が認定されます。「著しい欠損」とは、まぶたを閉じたはずなのに黒目を覆いきれない状態です。
    両目のまぶたの一部に欠損を残す又はまつげはげを残すときは13級4号、片目のまぶたの一部に欠損を残す又はまつげはげを残すときは14級1号が認定されます。「一部に欠損」とは、まぶたを閉じたときに黒目を完全に覆えるものの、白目は覆いきれない状態です。
    眼(まぶた)において欠損障害と同時に醜状障害に該当する場合にも、より上位の等級が認定されます。

    上肢・下肢の露出面の醜状の程度と認定される可能性のある後遺障害等級

    上肢・下肢の醜状痕については、以下の認定基準が定められています。

    14級4号 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
    14級5号 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの

    上肢・下肢の露出面の醜状

    「上肢の露出面」とは、上腕から指先までを指します。上肢の露出面に手のひらの大きさの傷跡が残っていれば、14級4号に該当します。
    「下肢の露出面」は、太腿から足先までを指します。下肢の露出面に手のひらの大きさの傷跡が残っていれば、14級5号に該当します。
    また、上肢・下肢いずれについても、手のひらの大きさの3倍程度以上の傷跡が残っているときには「特に著しい醜状」として「12級相当」とされています。
    なお、労災保険の障害認定においては「露出面」の範囲がそれぞれ肘より先、膝より下とされており、交通事故とは異なるので注意してください。

    日常露出しない部位の醜状

    日常露出しない部位(胸部・腹部・背部・臀部)の醜状痕についても、認定の対象です。具体的には、胸腹部、背臀部の醜状痕について以下の基準で等級が認定されます。

    • それぞれの全面積の1/2程度以上の範囲に及ぶ→12級相当
    • それぞれの全面積の1/4程度以上の範囲に及ぶ→14級相当

    醜状痕による逸失利益の認定

    醜状痕で後遺障害等級の認定を受けたときには、逸失利益が問題になります。
    逸失利益とは、将来得られるはずであったのに、障害の影響で得られなくなった収入をいいます。この点、醜状痕があっても身体が動くのであれば、仕事そのものには影響がなく収入が減らない場合が多いとも考えられます。
    もっとも、醜状痕により労働に支障がある場合もあります。たとえば以下のケースです。

    • 俳優、モデル、ホスト、ホステスなど、容姿が重要な職業に就いている
    • 販売店員、保険外交員など、接客を伴う職業に就いている
    • 醜状痕を理由に営業ができなくなり、配置転換を強いられた
    • 子どもに醜状痕が残ったため、就職に支障がある

    相手方から「逸失利益は認められない」との主張がなされたときには、仕事への影響を証明しなければなりません。弁護士に依頼して、説得力のある反論をする必要性が高くなります。

    醜状痕の等級認定を受けるためのポイント

    醜状痕で等級認定を受けるためには、以下のポイントに注意してください。

    症状固定後速やかに申請する

    醜状痕の後遺障害申請は、症状固定後速やかに行ってください。時間が経つと傷跡が薄くなり、妥当な認定を受けられなくなるおそれがあります。
    また、事故によって傷跡が生じたことを説明できなくなる事態を避けるため、事故から間もない段階で患部を撮影しておきましょう。
    他に重大なケガをしていると、醜状痕への対応が疎かになってしまう場合もあります。忘れずに申請するようにしてください。

    認定手続きのための面接を受ける

    後遺障害の認定手続きは、通常は書面審査です。もっとも、醜状痕は写真だけではわかりにくいため、一般的に面接調査が行われます。
    醜状痕で後遺障害認定を獲得したいときには、必ず面接調査を受けるようにしましょう。

    面接調査に弁護士にも同行してもらう

    面接調査においては、実際に醜状痕の大きさや状態を確認されます。しかし、担当者によって考え方が異なる場合があり、間違った判断がなされる可能性も否定できません。
    弁護士が面接調査に同行すれば正しく状態を説明できるので、適切な等級を認定してもらいやすくなります。

    まとめ

    ここまで、交通事故による醜状痕で認定される後遺障害等級や、認定のポイントなどについて解説してきました。
    醜状痕が残ってしまった場合、7級、9級、12級、14級に認定される可能性があります。正しく等級認定を受けたうえで、個々の事情に応じて仕事への影響を証明することが重要です。
    「自分の場合は何級が認定されるか知りたい」「相手から逸失利益を否定されている」などとお悩みの方は、交通事故に詳しい弁護士のサポートが必要になりますので、弁護士法人せせらぎ法律事務所東京立川支所までお気軽にご相談ください。

投稿者: せせらぎ法律事務所

後遺障害11級とは?認定基準や慰謝料の相場、逸失利益について解説!

2024.06.04更新

後遺障害11級とは?認定基準や慰謝料の相場、逸失利益について解説!

交通事故の怪我の内容や程度によっては、治療を続けても完治せずに後遺症が残ってしまうことがあります。このような後遺症については、後遺障害等級認定の申請を行うことで、症状に応じた等級認定を受けられる可能性があります。
今回は、後遺障害11級の認定基準や慰謝料相場、逸失利益などについてわかりやすく解説します。

後遺障害11級とは

後遺障害11級は、どのような場合に認定されるのでしょうか。以下では、後遺障害11級の基本事項と認定基準を説明します。

後遺障害11級の基本事項

交通事故で後遺症が残ってしまった場合、一定の要件を満たせば、後遺障害等級が認定されます。交通事故の後遺障害は、1級から14級まであり、数字が小さいほど重い後遺障害になります。
後遺障害11級は、具体的な症状に応じてさらに1号から10号まで分かれています。症状に応じて認定基準も異なりますので、適正な後遺障害認定を受けるためにも、各症状に応じた認定基準をしっかりと理解しておきましょう。

後遺障害11級の認定基準

後遺障害11級の認定基準を症状ごとにまとめると、以下の表のようになります。

後遺障害11級の認定基準
等級 認定基準
1号 両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
2号 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
3号 1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
4号 10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
5号 両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
6号 1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
7号 脊柱に変形を残すもの
8号 1手のひとさし指、なか指又はくすり指を失ったもの
9号 1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの
10号 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの

この認定基準だけではどのような症状で後遺障害11級が認定されるかイメージしづらいと思いますので、次章では各症状に応じた詳細な認定基準を説明します。

後遺障害11級が認められる症状

後遺障害11級の認定基準は、1号から10号までの症状に応じて、さらに細かい認定基準が定められています。以下では、症状ごとの詳細な認定基準を説明します。

後遺障害11級1号|両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの

眼球に著しい調節機能障害を残すものとは、調節力(ピントを合わせる機能)が通常の場合の2分の1以下になった状態をいいます。
眼球に著しい運動障害を残すものとは、注視野(頭部を固定し、眼球を運動させて直視できる範囲)の広さが2分の1以下になった状態をいいます。

後遺障害11級2号|両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの

まぶたに著しい運動障害を残すものとは、目を開けても瞳孔領(黒目の中心)がまぶたで完全に覆われてしまう状態、または、目を閉じても角膜(黒目)を完全にまぶたで覆うことができない状態をいいます。

後遺障害11級3号|1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの

まぶたに著しい欠損を残すものとは、まぶたの欠損により目を閉じたときに角膜(黒目)を完全に覆うことができない状態をいいます。

後遺障害11級4号|10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの

歯科補綴とは、現実に喪失または著しく欠損した歯に対して、入れ歯、インプラント、ブリッジ、クラウンなどで補綴することをいいます。交通事故により、10本以上の歯に歯科補綴を加えた場合には、後遺障害11級4号が認定されます。

後遺障害11級5号|両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの

両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったものとは、両耳の平均純音聴力レベルが40㏈以上になった状態をいいます。

後遺障害11級6号|1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの

1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったものとは、以下のいずれかの状態をいいます。

  • 片耳の平均純音聴力レベルが70㏈以上80㏈未満の状態
  • 片耳の平均純音聴力レベルが50㏈以上であり、かつ、最高明瞭度が50%以下の状態

後遺障害11級7号|脊柱に変形を残すもの

脊柱に変形を残すものとは、以下のいずれかに該当するものをいいます。

  • せき椎圧迫骨折等を残しており、そのことがエックス線写真等により確認できるもの
  • せき椎固定術が行われたもの(移植した骨がいずれかのせき椎に吸収されたものを除く)
  • 3個以上のせき椎について、椎弓切除術等の椎弓形成術を受けたもの

後遺障害11級7号は、頚椎や胸椎、腰椎といった首・腰・背骨(脊椎)を圧迫骨折した場合に認定されることが多い後遺障害等級です。

後遺障害11級8号|1手のひとさし指、なか指又はくすり指を失ったもの

指を失うとは、おや指以外の指については近位指節間関節以上(第2関節よりも先)を失った状態をいいます。
交通事故により、ひとさし指、なか指、くすり指のいずれか1本を失うと、後遺障害11級8号が認定されます。

後遺障害11級9号|1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの

足指の用を廃したものとは、以下のいずれかに該当するものをいいます。

  • 第1の足指(おや指)の末節骨(指先の骨)の長さの2分の1以上を失ったもの
  • 第1の足指(おや指)以外の足指を中節骨もしくは基節骨を切断したものまたは遠位指節間関節もしくは近位指節間関節において離断したもの
  • 中足指節関節または近位指節間関節(第1の足指(おや指)にあっては指節間関節)の可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されるもの

片足のおや指を含む2本以上の指に上記の症状が残った場合、後遺障害11級9号が認定されます。

後遺障害11級10号|胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの

胸腹部臓器の機能に障害を残すとは、胸腹部臓器の種類に応じて、以下のような症状をいいます。

胸腹部臓器の種類 認定基準
呼吸器 動脈血酸素分圧が70Torrを超え、動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にないもの
スパイロメトリーの結果が%1秒量35以下または%肺活量40以下で、軽度の呼吸困難が認められるもの
・軽度の呼吸困難とは、呼吸困難のため、健常者と同様には階段の昇降ができないものをいう
スパイロメトリーの結果が%1秒量35を超え55以下または%肺活量40を超え60以下で、軽度の呼吸困難が認められるもの
スパイロメトリーの結果が%1秒量55を超え70以下または%肺活量60を超え80以下で、高度・中等度・軽度の呼吸困難が認められるもの
・高度の呼吸困難とは、呼吸困難のため、連続しておおむね100m以上歩けないものをいう
・中等度の呼吸困難とは、呼吸困難のため、平地でさえ健常者と同様には歩けないが、自分のペースでなら1㎞程度の歩行が可能であるものをいう
循環器 心機能の低下による運動耐容能の低下が軽度であるもの
房室弁または大動脈弁を置換したもの(継続的に抗凝血薬療法を行うものを除く)
大動脈に偽腔開存型の解離を残すもの
消化器 胃に消化吸収障害、ダンピング症候群または胃切除術後逆流性食道炎のいずれかが認められるもの
小腸を大量に切除し、残存する空腸および回腸の長さが100cmを超え300cm未満となったものであって、消化吸収障害が認められるもの
小腸または大腸に皮膚瘻が残り、瘻孔から少量ではあるが明らかに小腸または大腸内容が漏出する程度のもの
小腸または大腸の狭窄を残すもの
大腸を大量に切除したもの
便秘を残すもの(用手摘便を要するものを除く)
常時おむつの装着は必要ないものの、明らかに便失禁があると認められるもの
慢性肝炎
膵臓の外分泌機能または内分泌機能の障害のいずれかが認められるもの
腹壁瘢痕ヘルニア、腹壁ヘルニア、鼠経ヘルニア、内ヘルニアを残し、重激な業務に従事した場合など腹圧が強くかかるときにヘルニア内容の脱出・膨隆が認められるもの
泌尿器 腎臓を失っていないが、GFRが50ml/分を超え70ml/分以下のもの
片側の腎臓を失い、GFRが70ml/分を超え90ml/分以下のもの
外尿道口形成術を行ったもの
尿道カテーテルを留置したもの
膀胱機能障害により、残尿が50ml以上100ml未満であるもの
尿道狭窄により排尿障害を残し、糸状ブジーを必要とするもの
切迫性尿失禁および腹圧性尿失禁を残し、常時パッド等の装着は要しないが、下着が少しぬれるもの
頻尿を残すもの(以下のいずれにも該当するもの)
・器質的病変による膀胱容量の器質的な減少又は膀胱若しくは尿道の支配神経の損傷が認められること
・日中8回以上の排尿が認められること
・多飲等の他の原因が認められないこと

後遺障害11級の慰謝料の相場

後遺障害慰謝料の算定基準には、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準(裁判基準)の3つがあります。各算定基準により後遺障害慰謝料の金額が異なりますので、以下では、各基準に基づく後遺障害11級の慰謝料の相場を説明します。

自賠責基準

自賠責基準とは、自賠責保険から後遺障害慰謝料が支払われる際の算定基準です。自賠責保険は、交通事故被害者に対する最低限の補償を目的とした保険ですので、補償内容も3つの基準の中では、最も低い金額になります。
後遺障害11級が認定された場合の慰謝料は、136万円と定められています。

任意保険基準

任意保険基準とは、加害者が加入する任意保険が独自に定めた慰謝料の算定基準です。任意保険基準の内容については、一般に公開されておらず、保険会社によって算定基準が異なるため、詳細な金額は不明です。一般的には、自賠責基準と同程度か若干上乗せされた程度の金額になります。

弁護士基準(裁判基準)

弁護士基準とは、過去の交通事故裁判例などの蓄積により形成された慰謝料の算定基準です。弁護士基準は、弁護士が示談交渉などで用いる基準になりますが、裁判になった場合に裁判所が使用する基準であることから「裁判基準」とも呼ばれます。裁判基準は、3つの算定基準の中でもっとも慰謝料が高額になる基準です。
後遺障害11級が認定された場合には、420万円が弁護士基準(裁判基準)の相場です。

後遺障害11級の逸失利益

逸失利益とは、交通事故により後遺障害が残らなければ将来得られたはずの利益をいいます。以下では、後遺障害11級が認定された場合の逸失利益について説明します。

後遺障害11級の逸失利益の計算方法

後遺障害逸失利益は、以下のような計算式より算出します。
後遺障害逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数

①基礎収入

基礎収入とは、基本的には事故前1年間の収入をいいます。
サラリーマンであれば事故前年の源泉徴収票の「支払金額」、または所得証明書の「給与支払額」欄記載の金額が基礎収入になります。収入のない主婦(主夫)でも家事労働を「仕事」と評価できますので、賃金センサスの女性労働者の全年齢平均(産業計・企業規模計・学歴計)が基礎収入になります。

②労働能力喪失率

労働能力喪失率とは、後遺障害により低下した労働能力を数値化したものになります。労働能力喪失率は、後遺障害等級ごとに定められており、後遺障害11級の場合は、20%が労働能力喪失率となります。

③労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数

労働能力喪失期間とは、後遺障害により労働能力が失われる期間のことをいいます。原則として症状固定時の年齢から67歳までの年数が労働能力喪失期間になります。ただし、以下のような例外もありますので注意が必要です。

  • 18歳未満の子ども……18歳から67歳までの年数
  • 大学生……大学卒業時から67歳までの年数
  • 67歳までの期間が短い人……67歳までの年数と平均余命の2分の1の年数のうち長い方
  • 67歳を超える高齢者……平均余命の2分の1の年数

ライプニッツ係数とは、逸失利益が一括で支払われることで発生する利息(中間利息)を控除するための数値で、国土交通省のサイト[y1] により確認することができます。

後遺障害11級の逸失利益が認められない場合

後遺障害逸失利益は、後遺障害が残ってしまったことによる将来の減収分を補填するものになります。よって、後遺障害逸失利益が認められるためには、原則として後遺障害により減収が生じたまたは減収が生じる可能性があることが必要です。
ただし、減収がなかったとしても、以下のような特段の事情がある場合には、逸失利益が認められる可能性があります。

  • 本人の努力や勤務先の特別な配慮により収入を維持している
  • 将来、昇進や昇給などにおいて不利益が生じる可能性がある

また、被害者が働いておらず現実の収入がない場合には、原則として逸失利益は認められませんが、労働の意欲と能力があり、就職する蓋然性が高いと認められれば、現実に収入がなかったとしても逸失利益を請求できる可能性があります。

編集部まとめ

後遺障害11級の認定を適切に受けるためには、症状に応じた認定基準を理解していなければなりません。認定された等級に応じて後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益の金額が異なりますので、適正な賠償金の支払いを受けるためにも、専門家である弁護士のサポートが必要になります。
交通事故の被害に遭われた方は、弁護士法人せせらぎ法律事務所東京立川支所までお気軽にご相談ください。

投稿者: せせらぎ法律事務所

交通事故で支払われる通院交通費とは?算定方法や通院以外で認められる交通費などについて解説!

2024.06.04更新

交通事故で支払われる通院交通費とは?算定方法や通院以外で認められる交通費などについて解説!

交通事故で負傷した被害者は、入院あるいは通院してケガを治療します。事故によって負傷したケガの治療費はもちろん、通院のためにかかった交通費は、原則として加害者(保険会社)が負担しますが、場合によっては通院交通費として認められないことがあります。

そこで今回は、交通事故で支払われる通院交通費について解説します。交通費の算定方法や、通院以外で認められることがある交通費についても解説しているので、参考にしてみてください。

交通事故で支払われる通院交通費とは

事故で負傷した被害者が、治療のために通院する際にかかった交通費は「通院交通費」として加害者に請求できます。

ただし、どのような交通手段でも認められるわけではなく、場合によっては通院交通費として認められないケースあります。そのため、通院交通費として認められる基準や算定方法をあらかじめ知っておくことが大切です。

通院交通費の基本事項

通院で利用した交通手段によって算定方法は異なりますが、いずれの交通手段でも次の基準が満たされることが重要となります。

通院交通費として認められるための基準

・交通事故と相当因果関係がある

事故で負傷し、その治療のための通院に現実に支出されたことが必要です。事故と関係のない支出には相当因果関係が認められません。
たとえば、通院の途中に別の用件で遠回り・寄り道をした場合などに、通常の通院経路から外れた部分の交通費は加害者へ請求できません。

・必要かつ相当な範囲の支出である

通院のために必要かつ相当な範囲の支出であることが求められます。
たとえばタクシー代を請求する場合、軽い打撲傷であるのにタクシーを利用した、といった場合は「必要かつ相当な範囲の支出」と認められない可能性があり、注意が必要です。詳しくは後述します。

通院交通費と慰謝料の違い

慰謝料と通院交通費は、いずれも加害者(保険会社)から支払われるものですが、その性質が異なります。

慰謝料は、事故によって受けた精神的苦痛に対して支払われる賠償金のことであり、その金額は、傷害・後遺障害の内容程度、治療経過、被害者の職業や生活に生じた現実の不都合、事故の態様等を総合的に考慮して判断されます。

一方、通院交通費は現実に支出された実費であり、明確です。通院で利用した交通手段と経路、日付等は、後日証明・説明ができるようにしっかりと記録しておきましょう。

通院交通費の請求方法

保険会社に対して通院交通費を請求する場合は、通常「通院交通費明細書」を提出する必要があります。

通院交通費明細書を提出する

保険会社から通院交通費明細書が送られてくるので、通院した日付や期間、医療機関名、通院で利用した使用した交通手段、使用した区間とその費用を正確に記載します。
タクシーや駐車場、高速道路を利用した場合は、領収書も併せて提出しましょう。
なお、電車やバスなどの公共交通機関の場合は、領収書の提出は必要ありません。また自動車の利用の場合でも、領収書は不要です。

通院交通費を請求できるタイミング

通院交通費は、保険会社から届いた通院交通費明細書を返送すればいつでも請求できます。
もっとも、その都度請求すると明細書を何度も書いたり返送したりする手間がかかるので、1か月分などをまとめて請求するか、通院が終了したタイミングで請求する方が無難でしょう。

通院交通費を請求できる期間

ケガの完治、または症状固定までの通院交通費は原則としてすべて請求できます。
症状固定とは、「傷病に対して行われる医学的一般に承認された治療方法をもってしても、その効果が期待し得ない状態(療養の終了)で、かつ、残存する症状が、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態に達したとき」をいい、簡略化していえば「相当の治療期間を経て、これ以上の治療効果が認められないこと」といえます。
症状固定になると、治療費の支払いも打ち切られるため、それに付随して交通費の支払いも打ち切られます。

請求した通院交通費が振り込まれる時期

保険会社によって異なりますが、通院交通費明細書を提出後、書類に問題がなければ2週間ほどで指定の口座に振り込まれることが多いでしょう。
通院交通費は一旦被害者本人が立て替え、後から保険会社に請求することが原則ですが、立て替えが難しい場合は保険会社に相談することもできる場合があります。
振り込まれる正確な期日が知りたいときは、保険会社に直接問い合わせることをおすすめします。

交通手段ごとの通院交通費の算定方法

次に、交通手段ごとの通院交通費の算定方法をご紹介します。

電車やバスの交通費

電車やバスなどの公共交通機関の交通費は、次の計算式で算定します。

片道運賃×2(往復分)×通院日数

たとえば、電車で片道340円の医療機関に自宅から10日間通院した場合の交通費は

340円×2×10日=6,800円

となります。

電車やバスは通院交通費明細書に記載された乗車区間をもとに料金の算出ができるので、領収書の添付は不要です。

タクシーの交通費

公共交通機関の利用が難しく、タクシーを利用することに必要性・相当性がある場合にタクシー代が損害として認められます。

ただし、タクシー代は公共交通機関の料金水準を大幅に超える費用がかかるため、保険会社はその必要性・相当性を慎重に判断します。
つまり、ケガが軽度のものであり、電車やバスを利用できるはずであるのにタクシーを利用した場合などは、通院交通費として認めらない可能性があるのです。

なお、タクシーの利用に必要性・相当性が認められるケースとして次の例があります。

  • 足を骨折して歩くことができない
  • 階段の昇降や車内で立った状態でいることが難しく、公共交通機関の利用が困難
  • 自宅から駅や停留所までの距離が極めて遠く不便

タクシー利用が認められるか否か不安な場合は、事前に保険会社にタクシー利用について確認し、了解を得ておくべきでしょう。

自家用車の交通費

通院の際に自家用車を利用した場合、公共交通機関やタクシーのように明確な金額が算出できないため、一般的にはガソリン代として1kmあたり15円が支払われます。
なお、距離計算の基礎となる移動経路は、Googleマップなどを利用して最も効率の良いものが選択されることが一般的です。
その他、通院先が遠方で高速料金が発生した場合にも実費を請求できます。高速道路の利用に関しては証拠として領収書が必要になります。

駐車場の料金

自家用車で通院し、有料の駐車場を利用した場合は駐車場代も実費が認められます。証拠として領収書が必要となりますので、失くさないよう保管しておきましょう。

自転車・徒歩の交通費

自転車や徒歩の場合は、通院交通費を請求できません。

通院以外の交通費について

事故で受傷したことにより、交通費の出費を余儀なくされた場合に認められる可能性があります。

通勤や通学の交通費

足を骨折するなどして自家用車・自転車・徒歩等の手段による通勤・通学が困難になった場合、電車・バス、タクシーの利用について必要性・相当性が認められる場合があります。

警察署に出向くための交通費

事故後、警察からの出頭要請を受けて警察署に行くことがあるかもしれません
この際の交通費については、二通りの考え方があり得ます。
一つは、捜査に協力することは国民の義務であるので、そのための交通費は事故による損害ではないという考え方です。
他方で、そのような義務を負担するに至った原因は交通事故である、として損害と認める考え方もあり得ます。

お見舞いに来てくれた人の交通費

事故が被害者の住所地から遠方で発生し、近親者が現地に駆けつけることがあります。
その際に発生した近親者の交通費や宿泊費は、被害者のけがの程度や看護等の必要性など、諸般の事情を考慮して判断されます。
過去の裁判でも判断が分かれるところですが、被害者が危篤あるいは死亡などの重大な事案で交通費が認められる傾向があります。

接骨院・整骨院に通うための交通費

医師の指示・了解がなく、ケガの症状に有効かつ相当とも認められないのに接骨院・整骨院に通院した場合、そのための交通費は損害として認められない可能性があります。

編集部まとめ

交通事故で受傷した場合の通院交通費についてご紹介しました。
通院交通費は、交通事故に遭わなければ必要のなかった出費ですから、たとえ少額でも加害者(保険会社)に請求することが大切です。
ただし、通院にかかった交通費なら何でも請求できるわけではなく、必要性・相当性がなければ通院交通費として認められない点に注意が必要です。
また、交通手段によっては保険会社が「必要性・相当性がない」と判断し、支払いを拒否する可能性もあります。そのような場合は、交通事故に詳しい弁護士にお気軽にお問い合わせください。

立川市内に事務所を構える「せせらぎ法律事務所東京立川支所」では、初回のご相談は無料としております。当事務所の2名の弁護士が、長年の実績と専門知識を存分に発揮し、最適なサポートを心がけています。些細なケースでも構いませんので、お気軽にご連絡ください。

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交通事故で慰謝料をいくらもらった?症状別の相場や適切な慰謝料をもらうためのポイントを紹介!

2024.06.04更新

交通事故で慰謝料をいくらもらった?症状別の相場や適切な慰謝料をもらうためのポイントを紹介!

交通事故に遭った被害者の方は、ほとんどのケースで加害者に対して慰謝料を請求でき、そのことを皆さまもよくご存知かと思います。しかし、慰謝料の計算方法や相場を理解していなければ、適切な補償を得られない可能性があります。また、慰謝料以外にも賠償金として請求できる費目が存在しますが、それらについて知らなければ、請求をしないままに示談してしまう可能性があります。本記事では、まず慰謝料の種類と複数存在する基準について解説していきます。また、慰謝料以外にも賠償金に含まれる費目についても解説します。
交通事故に遭ってしまった方や、身近な人が事故に巻き込まれてしまった方は、ぜひ参考にしてください。

交通事故の慰謝料の種類

慰謝料とは、交通事故の被害者の精神的苦痛に対する賠償のことをいいます。交通事故の慰謝料は、つぎの3種類に分けて検討されています。

入通院慰謝料(傷害慰謝料)

入通院慰謝料は、交通事故によって入院や通院をした場合に、その期間や日数などに応じて支払われる賠償金です。交通事故で負傷し、そのために入院や通院をされた方であれば、まずこの慰謝料が認められることになります。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料は、交通事故によるケガが原因で後遺症が残った場合に、そのことで被った精神的苦痛に対する賠償金です。交通事故で負傷した際、相当の期間治療を継続したものの、何らかの症状が残存してしまう場合があり、これを後遺症といいます。後遺症については、後遺障害の等級認定制度が設けられており、被害者の残存症状が後遺障害に該当すると認定された場合には、認定された等級に応じて後遺障害慰謝料を請求することができます。

死亡慰謝料

死亡慰謝料とは、交通事故で被害者が死亡したことで、被害者(及びその遺族)が被った精神的苦痛に対する賠償金のことです。亡くなった本人に認められるものとその遺族に認められるものがあります。

交通事故の慰謝料の計算方法

これらの慰謝料には、下記の3通りの計算方法があります。このうちのどれを採用するかで慰謝料の金額は大きく変わります。

自賠責基準

自賠責基準は、自賠責保険会社が自賠責保険金を支払う際に用いられる基準です。通常は、つぎに述べる任意保険基準や弁護士基準(裁判基準)に比べると低い金額となります。

任意保険基準

任意保険基準とは、それぞれの任意保険会社が設定している基準です。一般的には、通院の終了後に相手方の任意保険会社から賠償金が提示されますが、その際の慰謝料は自賠責基準か任意保険基準に基づいて算定された金額であることがほとんどです。任意保険基準で計算された慰謝料は、自賠責基準で計算された金額よりも高く、弁護士基準で計算された金額よりも低くなる傾向にあります。

弁護士基準(裁判基準)

弁護士基準(裁判基準)とは、過去の裁判例をもとに設定された基準です。裁判を起こした場合に認定される可能性のある金額となります。3つの計算方法の中で慰謝料が最も高額になる可能性が高いです。弁護士が交渉する場合にはこの基準を前提とすることになります。

慰謝料の相場と事例

次に、慰謝料の相場を事例別に解説します。

頚椎捻挫・腰椎捻挫(非該当)の場合

交通事故でもっとも典型的な通院は、停車中に後ろから追突され、頚椎捻挫・腰椎捻挫を負いリハビリ通院するというものです。リハビリ通院をして後遺症が残存しなかったか、もしくは後遺障害申請をしたが非該当であったことを前提にします。この場合には、後遺障害が存在しないため、慰謝料は入通院慰謝料のみとなります。弁護士基準(裁判基準)の計算では、赤い本の別表Ⅱを採用することになります。週に数回リハビリ通院を継続していた場合、通院期間が1か月で19万円、3か月で53万円、6か月で89万円が弁護士基準(裁判基準)の慰謝料となります。なお、1か月で15回通院した場合、自賠責基準では4300円×15日×2=12万9000円が慰謝料となります。

頚椎捻挫・腰椎捻挫で14級が認定された場合

頚椎捻挫・腰椎捻挫で6か月間リハビリ通院をし、頚部痛・腰部痛などの神経症状について後遺障害等級14級9号が認定された事例を前提にします。この場合には、先ほど述べたとおり、まず6か月の通院慰謝料が弁護士基準(裁判基準)で89万円となります。また、こちらの事例では14級の後遺障害慰謝料も認められることになり、弁護士基準(裁判基準)では110万円となります。なお、自賠責基準での14級の後遺障害慰謝料は32万円となります。

骨折などを負った場合

骨折などを負った場合は、通常、赤い本の別表Ⅰを採用します。別表Ⅰは軽い傷病を前提とする別表Ⅱに比べ慰謝料の金額が高くなっています。たとえば、1か月入院した場合、赤い本別表Ⅰでは、53万円が弁護士基準(裁判基準)となります。これに対して、自賠責基準では、4300円×30日=12万9000円が慰謝料となります。さらに、後遺障害が認定された場合には、後遺障害慰謝料も認められることになります。骨折後に痛みが残存するなどして14級9号が認定された場合には、先に述べたとおり弁護士基準(裁判基準)では110万円の後遺障害慰謝料が認められます。また、骨折箇所の癒合不全・不正癒合などが原因で痛みが残存しており、他覚的所見があることから12級13号が認定された場合には、弁護士基準(裁判基準)の後遺障害慰謝料が290万円まで増えます。なお、自賠責基準での12級の後遺障害慰謝料は94万円です。

死亡事故の場合

事故から死亡までの間に入通院期間があれば、入通院慰謝料が認められます。この場合、弁護士基準(裁判基準)では、先にみたとおり重い傷病として赤い本の別表Ⅰを採用することになるでしょう。つぎに、死亡事案では死亡慰謝料が認められます。弁護士基準(裁判基準)、すなわち赤い本では、一家の支柱の場合2800万円、母親・配偶者の場合2500万円、その他(独身の男女、子供、幼児等)の場合2000万円から2500万円としています。この金額には、被害者本人のほか親族の慰謝料も含まれています。自賠責基準では、本人の慰謝料が400万円、遺族の慰謝料は、請求権者1人の場合に550万円、2人の場合に650万円、3人の場合には750万円としています。さらに、被害者に被扶養者がいるときは200万円を加算するものとされていますが、いずれにしても、自賠責基準は弁護士基準(裁判基準)に比べて相当に低い金額となります。

慰謝料以外に請求できる費目

交通事故の被害者は、慰謝料以外にも加害者側にさまざまな費目を請求できます。ここでは、慰謝料以外に請求できる主な費目について説明します。

入院雑費

入院雑費とは、入院に際して必要となるさまざまな費用のことを指し、パジャマ代、おむつ代、テレビカード代などが含まれます。入院1日あたりの費用として、自賠責基準では1100円、弁護士基準(裁判基準)では1500円とされています。任意保険会社の提示では、自賠責基準を採用するか、実際の領収書に基づく金額が多いと思います。

通院交通費

通院交通費は、通院のために必要となった交通費のことで、公共交通機関の利用金額や自家用車のガソリン代、タクシー代や病院の駐車場代などを合理的な範囲内で請求できます。実務上、ガソリン代は通院先までの距離を1km15円で計算しています。なお、タクシー代は、ケガの程度などの事情から他の交通機関での通院が困難と認められる場合(必要性・相当性がある場合)にのみ請求することができますので、注意が必要です。

付添費

入院付添費と通院付添費があり、医師の指示があり付添が必要な場合や、被害者が幼児の場合などに認められます。弁護士基準での入院付添費は1日6500円、通院付添費は1日3300円とされています。

休業損害

交通事故後、症状固定までの間に受傷により収入が減少した場合に認められます。給与所得者の場合には休業損害証明書を勤務先に作成してもらうことになります。個人事業主の場合には確定申告書などを相手方保険会社へ提出することになります。休業損害は、骨折などの重い傷病の場合には比較的緩やかに認められますが、頚椎捻挫・腰椎捻挫などの一般的・客観的に軽い傷病の場合には、事故から一定期間が経過すると、休業の要否が争われやすい傾向にあります。なお、被害者が同居の家族のために家事をしている場合は、主婦(家事従事者)の休業損害が認められ得ることに注意が必要です。

逸失利益

被害者が死亡した場合及び後遺障害が認定された場合には、逸失利益が認められます。逸失利益とは、死亡または後遺障害を負ったことにより、将来にわたって失われる(見込みの)収入のことです。逸失利益の計算は、労働能力喪失期間や労働能力喪失率などを設定する必要があるため、専門的な知見が必要となります。

将来介護費

重度の後遺障害が残り、介護が必要になった場合には、将来介護費を請求できる可能性があります。実務上は、高次脳機能障害や遷延性意識障害などにより、相当に高い等級が認定された場合に認められています。将来介護費は日額の設定について争いになりやすく、やはり計算には専門的な知見が必要といえます。

適切な賠償金を獲得するためのポイント

最後に、適切な賠償金を獲得するためのポイントについて解説します。

適切・妥当な態様で医療機関に通院する

通院に関して争いになりやすいケースとしては、事故後しばらくしてから初めて通院する場合(初診遅れ)や、事故直後は通院したがブランク(中断・空白期間)がある場合を挙げることができます。このような場合は、交通事故と傷病・残存症状(ひいては通院)との相当因果関係を証明することが難しくなってしまうのです。交通事故と通院の相当因果関係が認められない場合は、通院をしても通院慰謝料が認められなくなりますし、後遺障害申請をしても非該当となる確率が非常に高くなります。

後遺障害の認定を受ける

適切な補償を受けるためには、適切な後遺障害等級認定を受けることが必要です。どのような後遺障害等級認定を受けたかにより、慰謝料や逸失利益の金額が大きく異なります。例えば、同じ14級の認定であっても、醜状痕による14級4号と神経症状による14級9号では、逸失利益が認められるか否かという点で賠償額に極めて大きな差が出ます。適切な等級認定を受けるためには、事前に専門家に相談しておくことが大変重要です。

弁護士に相談して弁護士基準(裁判基準)で計算する

先にご説明したとおり、相手方の任意保険会社は、自賠責基準や任意保険基準をもとに賠償金を提示してきますが、そのようにして提示された賠償金は、一見すると皆様が思っていたよりも高額かもしれません。しかし、一見良い内容に見える賠償金も、大半の事案では弁護士基準(裁判基準)に比べると低額であり、弁護士が介入することによる増額の可能性があります。本記事でご説明した慰謝料に関しては、任意保険会社の提示から倍以上の金額になるケースも珍しくありません。相手方の保険会社に対して被害者の方がご自身で交渉をなさっても、弁護士基準(裁判基準)までの増額にはなかなか応じてもらえないはずです。相手方の保険会社から賠償金の提示があった際には、一度弁護士に相談してみることをおすすめします。

交通事故に関することならせせらぎ法律事務所に相談を

弁護士法人せせらぎ法律事務所東京立川支所では、交通事故の慰謝料をはじめとする賠償金に関するご相談を受け付けています。初回のご相談は無料で承っており、事前のご予約があれば夜間のご相談にも対応できる場合があります。これまでに多数の交通事故案件を処理してきており、豊富な経験と潤沢な知識を活かしたサービスを提供しています。小さなことでも、まずはお気軽にお問い合わせいただけたら幸いです。

投稿者: せせらぎ法律事務所

交通事故問題に強い弁護士の見極め方とは?選ぶポイントや探し方について解説!

2024.06.04更新

交通事故問題に強い弁護士の見極め方とは?選ぶポイントや探し方について解説!

交通事故に強い弁護士とは

交通事故に関するトラブルは、交通事故の問題に強い弁護士へ相談・依頼をしなければ、納得のゆく解決をすることが難しくなる可能性があります。インターネットなどで探せば交通事故問題を手掛ける弁護士を多数見つけることができますが、それぞれの弁護士には知識量や経験数に大きな違いがあります。そのため、依頼者へのアドバイスの内容や、相手方保険会社へ請求する金額などにも影響が出てくるのです。そこで、交通事故について弁護士を選ぶ際に着目すべきポイントを見ていきたいと思います。

示談金(賠償金)の計算方法や相場について詳しい

示談金(賠償金)の計算方法や相場が特に問題となるのは、交通事故により怪我をして入院・通院をなさった場合です。
入院・通院が終わると、通常は加害者が加入する任意保険会社から賠償金を提示されますが、その提示内容が正しいのかどうかは、一般の方には非常に分かりづらいと思います。
また、弁護士であっても、ただ機械的に裁判基準(弁護士基準)を適用すればよいわけではなく、たとえば慰謝料に関してであれば、赤い本の別表ⅠとⅡのどちらを採用すべきか、3倍計算(3.5倍計算)をするべきか否かなどの方針を、実務の趨勢や経験則に基づいて見極める必要があります。
そして、弁護士が知識不足・経験不足ゆえにこのような選択を誤った場合、その悪影響は依頼者の皆様に及ぶことになり、端的に申し上げれば依頼者の皆様が損をしてしまうことになります
先ほどの慰謝料の例でいうと、別表Ⅰで計算をすべき事案に別表Ⅱを適用してしまえば、慰謝料は相当に低い金額に止まってしまいますし、実務上は3倍計算をすべき事案(通院が低頻度であり、慰謝料が通常より低い事案)につき、高額な慰謝料を期待させる誤った見込みを弁護士が依頼者の皆様に説明してしまった場合などは、当初説明された結果には到底たどり着かず、大きな不満を抱えたまま事件を終了しなければならないこともあり得るでしょう。

さらに、弁護士の能力としては、適切に示談金(賠償金)を計算することだけではなく、任意保険会社がどの程度の金額ならば示談に応じる見込みがあるのか、裁判に進んだ場合には裁判所がどのような判断をする可能性があるのか、といった点につき的確に将来の予想を立てられることも非常に重要です。なぜならば、このような予想が立てられなければ、保険会社と示談をすべきポイントの判断も、裁判へ進むべきかどうかの判断もすることができないからです。

弁護士にご相談をいただいた際、事案の内容やこれまでの経緯に基づき、その時点で予想される示談金(賠償金)をある程度明確に回答でき、また、その理由も併せて説明することができるようであれば、その弁護士は示談金(賠償金)の計算方法や相場に詳しいといえるのではないでしょうか。もっとも、事故態様やお怪我のご様子によっては、一義的に示談金(賠償金)を予想することが非常に難しい場合もあり得ます。よって、大切なポイントは金額を断言できるか否かにあるのではなく、将来の予想・見込みについて、その理由・根拠をきちんと説明できるか否かなのではないかと思われます。

交通事故の過失割合について詳しい

過失割合とは、交通事故が発生した状況における加害者と被害者の落ち度の割合のことです。過失割合は損害(賠償金)の計算全体に影響を及ぼしますので、治療費が高額であったり、後遺障害が認定された事案では、わずか10%の過失であっても、最終的に受け取れる金額に大きな差が出ます。
現在の実務では、任意保険会社も裁判所も「別冊判例タイムズ38号」という書籍(様々な事故態様での過失割合を類型化したもの)を参照して過失割合の処理を行っています。そのため、弁護士が過失割合を検討する際も、当然この判例タイムズを確認しています。もっとも、判例タイムズは典型的な事故態様を分類して掲載したものですから、実際に発生した事故がそのカタログに当てはまらないことも多くあります。そのため、そうした非典型の事故態様については、できる限り近い事故類型を判例タイムズから探し出し、合理的な根拠を付けて過失割合を主張すべきことになり、また、実際の事故態様に近い裁判例を検索することなども必要になります。相手方の任意保険会社は、依頼者の皆様とって不利な事故類型を選択・主張していることもありますので、弁護士としては、判例タイムズの取り扱いに習熟しているか否か、また、裁判例を十分に検索・検討できるか否か、といった能力が非常に重要となります。

なお、判例タイムズは各事故類型について基本の過失割合を定めており、さらに、様々な事実(修正要素)の有無によって過失割合を修正する仕組みになっています。そのため、弁護士としては依頼者の皆様に有利な修正要素を是非とも主張すべきことになり、かつ、そういった修正要素を、刑事事件記録(実況見分調書)・ドライブレコーダーの映像などの証拠や、依頼者の皆様のご記憶(ご相談)から発見する能力が必要となります。
ただし、依頼者の皆様が訴える修正要素について立証の見込みがない場合は、裁判所も修正要素は存在しないものとして処理する可能性が高いといえます。そのため、弁護士の能力としては、修正要素の立証可能性を見極められるかどうかも重要であるといえるでしょう。

弁護士に相談した際に、考察の基礎とすべき適切な事故類型(判例タイムズの図でいえば何番か)、修正要素の有無とその立証可能性などについて的確な説明があれば、過失割合に詳しい弁護士といえるのではないでしょうか

交通事故の後遺障害等級認定について詳しい

後遺障害等級が認定されれば、後遺障害慰謝料のほかに逸失利益も請求できる可能性がありますので、賠償金額に極めて大きな影響があります。
後遺障害は、主治医が後遺障害診断書を作成すれば必ず認定されるというものではなく、通院の方法、症状の推移、適切な検査をしたか、事故態様など様々な要素により判断されます。通院の方法に問題があったり、必要な検査をしていない場合には、いくら後遺障害があると主張しても認定の可能性は低くなってしまいます。
そのため、弁護士としては、適切な後遺障害認定がされるように、後遺障害診断書の内容を確認するだけではなく、通院の方法や検査についてもアドバイスをすることが必要です。
また、後遺障害の認定の可能性はあるのか、可能性があるとして何級なのか、といったことについて説明ができることも重要です。たとえば、実務上は後遺障害等級が認定される可能性のない方に対して、等級が認定されることを前提に賠償金の説明をすることは不誠実と言わざるを得ません。
なお、当事務所では、ご本人様やご家族も気が付いていなかった後遺症(高次脳機能障害や醜状痕など)を弁護士がご相談時に発見・指摘し、そのことによって後に高い後遺障害等級の認定を受け、多額の賠償金をお渡しできたケースが複数あります。それらのケースについては、弁護士から依頼者の皆様に対して、事故態様・傷病の内容・入通院のご状況などに照らした適切なアドバイスをできたということであり、まさに交通事故に強い弁護士の知識や経験がお役に立ったものといえるかと思います。

弁護士に相談した際、将来後遺障害の等級認定を受けられる可能性があるか(あるとして何級か)、また、そのために必要な検査や適切な通院方法を的確に回答できるようであれば、後遺障害等級認定について詳しい弁護士といえるでしょう。

弁護士を選ぶその他のポイント

これまでお伝えしてきたことは、賠償金の金額を大きくするために重要な要素に関するものでした。弁護士を選ぶ際には、つぎのようなことにも着目されるとよいでしょう。

分かり易い説明をしてくれる弁護士かどうか

弁護士の説明が分かりづらければ、その弁護士に問題がある可能性があります。交通事故に関する法律問題や損害保険の実務には多数の専門用語が登場しますが、どれだけ専門的な内容であっても、平易な言葉に噛み砕いて一般の方に分かり易く説明することは十分に可能であり、そのような説明ができることも弁護士に必要な能力の一つです。
専門用語が多く、何を話しているのか分かりづらい弁護士はお勧めできません。

解決までの全体像を説明できる弁護士かどうか

交通事故は、発生から解決までに長い時間がかかることの多い問題です。後遺障害申請をするようなケースでは、事故発生から解決まで1年以上かかることもよくあります。そのため、被害者としては、今後どのような経過をたどり、いつごろ解決するのかという全体像を、事前に把握しておきたいところです。弁護士がこのような説明をすることができない場合、それは交通事故実務の全体像を把握していないためである可能性があります。

リスクについて説明する弁護士かどうか

弁護士が手続きを進めたことで、かえって依頼者に経済的不利益が生じることがあります。そのようなリスクがあるのであれば、弁護士は事前に説明しておく必要があります。
典型的なケースは、弁護士費用の方が高くなってしまうような事案(費用倒れ)です。当事務所の場合は、このような可能性が高ければご依頼をお断りし、ご自身で手続きを進めることをお勧めしています。
この他に、交渉を決裂させ裁判へ進むことで経済的不利益が生じる事案もあります。
たとえば、交渉段階では50万円の休業損害の提示があり、それに納得がいかないとして裁判へ進んだものの、裁判段階で相手方が休業損害を争った結果、10万円しか認められなかった・・・というような場合です。裁判へ進んだとしても、実務上は現在提示されている賠償金の増額が困難と考えられる場合には、裁判へ進むことのリスクについて、依頼者に説明しておかなければいけません。保険会社が交渉段階ではある程度の金額を認めていたとしても、裁判へ進めば相手方に弁護士が登場し、交渉段階で認めていた費目を覆して争ってくることが往々にしてあります。このように、依頼者には、交渉段階から裁判へ進むことのリスクをよく説明しなければいけません。

弁護士費用について明確な説明をしてくれるかどうか

最近は弁護士費用特約を使う方が増えています。弁護士費用特約は、一般的には上限が300万円とされていますし、すべての費用が支払われる訳ではありません。そのため、弁護士費用特約から支払われない部分が発生する見込みがあるのかどうか、事前に説明を受けておく必要があります。
弁護士費用特約がない場合には、弁護士費用の計算方法、支払時期、予想される弁護士費用について事前に説明を受けておく必要があります。
これらは非常に重要ですので、明確な説明をする弁護士でなければいけません。

交通事故に強い弁護士を探すタイミングは?

交通事故が発生してしまったら、可能な限り早めに弁護士に相談していただくことをお勧めします。事故発生から解決までの全体像を把握し、適切な通院を行っていくために、交通事故に強い弁護士のアドバイスは非常に有用です。弁護士の解説を一度聞いていただければ、通院頻度・必要な検査・症状固定の時期などについて大いに理解が深まるはずです。
また、後遺障害申請を考えている方については、後遺障害診断書の作成前に弁護士へ相談された方が良いでしょう。いったん後遺障害診断書が作成され、自賠責保険会社や相手方保険会社へ提出されてしまうと、ミスがあったとしても訂正が困難な場合があります。
さらに、通院が終了して相手方から賠償金の提案があった方であっても、直ちに示談はなさらず、その段階で必ず弁護士へご相談をいただくことをお勧めします。弁護士が相手方からの提案内容を検討すれば、賠償金を大きく増額することができる可能性があるからです。

まとめ

交通事故に強い弁護士とはどのような能力を兼ね備えた弁護士か、また、その他のポイントについても解説しました。
もっとも、ここまでの解説をご覧いただいたとしても、現在ご相談をなさっている弁護士が交通事故に強いのかどうか、簡単には分からないかもしれません。そのような場合には、複数の弁護士や法律事務所にご相談いただくことをお勧めいたします。複数の弁護士を比較すると、弁護士の知識量や説明の分かり易さなど、これまでに解説してきたことを理解・実感していただくことができるはずです。

交通事故に強い弁護士をお探しならせせらぎ法律事務所に相談を

弁護士法人せせらぎ法律事務所東京立川支所では、交通事故に関するご相談を受け付けています。初回のご相談は無料で承っており、事前のご予約があれば夜間のご相談にも対応できる場合があります。これまでに多くの交通事故事案を解決してきており、豊富な経験と潤沢な知識を活かしたサービスを提供しています。小さなことでも、まずはお気軽にお電話いただけたら幸いです。

投稿者: せせらぎ法律事務所

後遺障害14級の症状と認定基準、慰謝料や損害賠償額の相場について解説!

2024.06.04更新

後遺障害14級の症状と認定基準、慰謝料や損害賠償額の相場について解説!

目次

後遺障害14級とは

後遺障害14級の認定基準

後遺障害14級の症状

後遺障害等級14級9号に認定される症状の程度

後遺障害等級14級9号の認定基準

後遺障害等級14級に認定された場合に加害者に請求できる費目

まとめ

後遺障害等級14級は、交通事故による後遺障害等級としては最も低い等級に位置付けられていますが、認定を受けるためのハードルは非常に高いといえます。14級に相当する症状が残存したとしても、症状固定前に必要な検査を受けていなかったり、後遺障害診断書の書き方に問題があったりすると、いくら異議申立てをしても認定を受けられなくなる可能性があります。また、14級の認定を受けないかぎり、加害者側の保険会社との示談交渉では、14級の後遺障害が残存することを前提とした交渉をすることはほぼ不可能です。
そのため、後遺障害の申請については事前に弁護士に相談することをおすすめします。

本記事では、後遺障害等級14級に認定される症状から等級認定を受ける方法、後遺障害14条9号の認定基準や認定された場合に請求できる費目などについて解説します。

後遺障害14級とは

交通事故により、ケガを負い治療を受けたものの、治療前の健康な状態には戻らず、機能障害や神経症状などの後遺症が残ることがあります。

交通事故の実務ではこの後遺症のうち、自動車損害賠償保障法(自賠法)施行令の別表に定められたものを後遺障害と呼んでいます。

ただし、交通事故による後遺症のすべてが自動的に後遺障害として認められるわけではなく、むしろ、ほとんどの後遺症は後遺障害等級認定を受けられないのが実情です。
後遺障害等級は1級から14級まであり、1級が最も重く、14級は最も軽い後遺症の場合に該当しますが、後遺障害14級であっても簡単に認定されるものではないため、制度を十分に理解したうえで手続きを進める必要があります。

後遺障害等級認定の受け方

後遺障害等級は、医師が認定してくれるわけではありません。医療機関を受診し、医師の診察を受けたうえで、必要な書類をそろえ、任意保険会社または自賠責保険会社を介して、損害保険料率算出機構に提出し、審査を受けます。損害保険料率算出機構では、基本的に被害者本人の症状を直接確認することはなく、提出された資料のみで、後遺障害に当たるのか、後遺障害に当たるとして等級は何級なのかの認定を行います。※醜状痕の審査では面接が行われることがあります。

よって、後遺障害等級認定では、適正な等級認定を受けられるように念入りに資料をそろえることが非常に重要になります。必要な資料はおおむね次のようなものです。

  • 自賠責保険支払請求書兼支払指図書
  • 交通事故証明書、事故発生状況報告書
  • 診療報酬明細書及び診断書(毎月発行されるもの)
  • 後遺障害診断書
  • レントゲン、MRI等の画像

従前は加害者側の任意保険会社を介して後遺障害の認定を受ける「事前認定」が主流だったと思いますが、ご自身の任意保険に弁護士費用特約を付ける方が増えたため、弁護士を選任して被害者請求の方法で後遺障害申請をする方が多くなっています。

後遺障害14級の代表的な症状

後遺障害14級に該当する後遺障害の代表的な症状には、むち打ち症(頸椎捻挫)や腰椎捻挫による痛み・しびれ等の神経症状があります。事故の衝撃で頸部や腰部に圧力がかかり、痛みやしびれが生じた状態で、レントゲンで確認しても骨折などの明確な他覚所見がない場合に、頸椎捻挫や腰椎捻挫と診断されます。頸椎捻挫は追突事故の衝撃で首が鞭のようにしなって衝撃を受けることからむちうち症と呼ばれています。

むち打ち症や腰椎捻挫になると、首や腰の痛みだけでなく、しびれ、頭痛、めまい、耳鳴り、吐き気といった症状が出ることがあります。この場合、以下の後遺障害等級認定を受けられる可能性があります。

  • レントゲン、MRI、CTといった検査で他覚的所見が認められ、医学的・客観的に症状を証明できる場合は、後遺障害12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」
  • 検査により他覚的所見が認められないが、痛みやしびれなどの自覚症状を受傷状況や治療経過から説明可能な場合は、後遺障害14級9号の「局部に神経症状を残すもの」

後遺障害14級9号の症状は、首や腰などの症状について証明までは至っていないが、合理的な説明が可能な状況でなければならず、提出した資料が不十分なものであれば等級認定を受けることが難しくなります。

後遺障害14級の認定基準

後遺障害14級の認定基準を症状ごとにまとめると、以下の表のようになります。

後遺障害14級の認定基準
等級 認定基準
1号 一眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの
2号 三歯以上に対し歯科補綴を加えたもの
3号 一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
4号 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
5号 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
6号 一手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの
7号 一手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
8号 一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの
9号 局部に神経症状を残すもの

後遺障害14級の症状

後遺障害14級に該当する症状については、次のように列記されています。それぞれ見ていきましょう。

後遺障害14級1号 一眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの

瞼を欠損したことにより、目を閉じても白目や黒目などの眼球の一部が露出してしまう状態になっている場合や、瞼で眼球を覆うことはできてもまつげが半分以上無くなり生えない状態です。

後遺障害14級2号 三歯以上に対し歯科補綴を加えたもの

歯を3本以上失った場合です。また、歯は残っていても歯茎から上の露出部分が4分の3以上欠けてしまった状態です。

後遺障害14級3号 一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの

片耳が中等度の難聴になってしまった場合です。具体的な平均純音聴力レベルで表すと、40デシベル以上70デシベル未満の場合です。

後遺障害14級4号 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの

上肢とは腕のことです。正確には腕の付け根から指先までのことで、その部分のどこかに手のひら(指を含まない)大の傷跡が残ってしまった場合です。労災ではひじ関節以下(手部を含む。)とされているので労災よりも範囲が広くなっています。

後遺障害14級5号 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの

下肢とは足のことです。正確には股関節から足の背面までのことで、その部分のどこかに手のひら(指を含まない)大の傷跡が残ってしまった場合です。労災ではひざ関節以下(足背部を含む。)とされているので労災よりも範囲が広くなっています。

後遺障害14級6号 一手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの

片手の親指以外の指の骨が一部を失っている(遊離骨片の状態を含む)ことがエックス線写真等により確認できるものをいいます。なお、親指に障害が生じた場合はより重い後遺障害等級認定の対象になります。

後遺障害14級7号 一手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの

手指の遠位指節間関節とは、指の一番先の関節、つまり第一関節のことです。親指以外の片手の第一関節を曲げたり伸ばしたりできなくなった場合に該当します。

後遺障害14級8号 一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの

片足の中指から小指のうち1または2本に障害が生じた場合です。足指の用を廃したとは、親指以外の場合、

  • 中節骨又は基節骨で切断したもの
  • 遠位指節間関節若しくは近位指節間関節で離断したもの
  • 中足指節関節又は近位指節間関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されるもの

という状態のことをいいます。

なお、第一の足指(親指)、第二の足指(人差し指)に障害が生じた場合は、より重い後遺障害等級認定の対象になります。

後遺障害14級9号 局部に神経症状を残すもの

局部とは体の一部という意味です。神経症状とは、痛み、痺れ、疼痛、灼熱感などの感覚障害や、めまい、吐き気、関節痛、頭痛、耳鳴りがするといった障害を指します。すでに紹介したとおり、むち打ち症が代表例ですが、その他にも次のような症状が該当する可能性があります。

  • 骨折や靭帯損傷による痛みや痺れ、知覚障害
  • 非器質性精神障害(PTSD・心的外傷後ストレス障害、うつ、パニック障害など)
  • 高次脳機能障害によるわずかな能力喪失

後遺障害等級14級9号に認定される症状の程度

後遺障害等級14級9号は、レントゲン、MRI、CTといった画像診断などでは他覚的所見が認められないものの、自覚症状について合理的な説明が可能な場合に認定される可能性のある障害等級です。合理的な説明が可能といえるかどうかは、後述のような要素によって判断されます。

後遺障害等級14級9号の認定基準

ここでは、後遺障害等級14級9号に認定されるための要素を解説します。

交通事故が症状を生じさせる程度のものだったか

頚椎捻挫・腰椎捻挫などによる疼痛等の症状を生じさせるほどの身体への負荷があったか、という問題です。追突された場合でも、低速度で追突され物損もわずかであったケースなどは、身体への負荷が小さく、後遺障害に該当するような症状が残存する可能性は低いため、非該当となる傾向にあります。一方、ノーブレーキでの追突や横転など物損の程度が大きい場合には、それに比例して身体への負荷も大きかったと考えられるため、後遺障害の認定にとってはプラスの要素となります。

交通事故直後から入院、通院を継続しているか

交通事故直後から症状固定時まで入院・通院を継続していたかどうか、という問題です。症状固定時とは、傷病がこれ以上回復しないと判断される時期のことです。14級9号の後遺障害は、整形外科などの医療機関へ相当期間通院を継続した上で症状が残存したことを前提としています。

主に接骨院や整骨院でリハビリをしている場合は、並行して整形外科などの医療機関にも定期的に通院していなければ、後遺障害認定は難しくなります。また、通院を途中で止め、痛みがぶり返したために再度通院するようになったというように、通院期間にブランク(中断・空白)のある場合は、ブランク後の通院について事故との相当因果関係が否定されてしまい、後遺障害等級認定を受けられないことがあります。

交通事故直後から症状が一貫しているか、症状に常時性があるか

交通事故直後から症状固定時まで、疼痛などの症状が一貫しているか、また、症状が常に存在しているかどうかも要件になります。事故直後には訴えていなかった症状がしばらくしてから発現するような場合は一貫性に欠けますし、痛い時と痛くない時があるといった症状ですと常時性に欠け、非該当となる傾向にあります。

医師による検査で神経学的所見があるか

画像診断で異常所見が確認できなくても、たとえば頚椎椎間板ヘルニアによる神経根症を確認するスパーリングテスト・ジャクソンテストや、腰椎椎間板ヘルニアによる神経根症を確認するSLRテスト・ラセーグテストといった神経学的検査により、自覚症状と整合する所見が得られた場合は、認定にとってプラスの要素となります。

後遺障害等級14級に認定された場合に加害者に請求できる費目

後遺障害等級14級に認定された場合は、加害者に対して下記のような費目が請求できるようになります。※入通院慰謝料は、後遺障害が認定されなくても請求可能です

入通院慰謝料

入通院慰謝料の計算方法には、自賠責基準(自賠責保険において慰謝料計算をする際に使用する基準)、任意保険会社基準、裁判所基準(弁護士基準)があり、通常は自賠責基準・任意保険会社基準よりも裁判所基準(弁護士基準)の方が高い金額になります。任意保険会社の賠償金の提示は、一般的に自賠責基準または任意保険会社基準に基づいてなされるため、裁判所基準(弁護士基準)までは至っていないことが多くなっています。弁護士は裁判所基準(弁護士基準)に基づいて交渉をすることになります。

自賠責基準では、次の計算式のうち少ない方の金額が支払われます。

  • 4300円 × 入通院を始めた日から入通院を終えた日までの日数
  • 4300円 × 実際の入通院日数を2倍した日数

任意保険会社基準は、任意保険会社ごとに採用する基準です。自賠責基準より高く裁判所基準よりも低いことが多いですが、任意保険会社による提示が自賠責基準そのままであることも実務上は多くみられます。

裁判所基準は、いわゆる赤い本の別表Ⅰ・別表Ⅱを用いて算出します。むち打ち症で他覚所見がない場合等(軽い打撲・軽い挫創も含む)は入通院期間を基礎として別表Ⅱを使用することとされています。そして、交通事故による傷病の大半は頚椎捻挫・腰椎捻挫(あるいは軽い打撲・挫創など)ですので、一般的には別表Ⅱを使用するケースが多いことになります。他方、赤い本別表Ⅰは、骨折した場合のように軽微ではない傷病の場合に使用されます。表の縦軸が通院日数、横軸が入院日数を表しており、縦軸と横軸が交差する箇所の数字が請求できる慰謝料の金額になります。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料も、自賠責基準と裁判所基準(弁護士基準)とで金額が異なります。

  • 自賠責基準の場合は、一律、32万円と定められています。
  • 一方、裁判所基準(弁護士基準)では、110万円が目安とされています。

後遺障害逸失利益

後遺障害逸失利益も入通院慰謝料や後遺障害慰謝料の場合と同様に、自賠責基準と裁判所基準(弁護士基準)とで金額が変わります。

  • 自賠責基準の場合は、14級の保険金額75万円と後遺障害慰謝料32万円との差額が43万円あり、これが逸失利益に相当すると考えられます。
  • 一方、裁判所基準(弁護士基準)では、次の計算式により算出します。

後遺障害逸失利益の計算式

基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

式内のそれぞれの項目について説明します。

基礎収入

基礎収入は、逸失利益を計算する際に基礎とされる収入のことを指し、基本的には、事故前年の源泉徴収票や確定申告書から判断します。

被害者の性別や年齢、職業などの属性によっては、賃金センサスを参考に基礎収入を定める場合もあります。賃金センサスとは、厚生労働省の統計調査に基づいて個人の属性別に平均賃金をまとめたデータです。次に、被害者の属性や職業別に、基礎収入の求め方について説明します。

・会社員のケース

会社員の基礎収入は、事故前の実際の収入を根拠として計算することが基本になります。実際の収入とは、額面の給与だけではなくボーナスや手当なども含めた金額を指し、通常は源泉徴収票の「支払金額」が用いられます。ただし、30歳未満の方で、実際の収入が賃金センサスの平均賃金額を下回っているものの、将来的に平均賃金程度の収入を得る可能性がある場合には、賃金センサスの平均賃金額を基礎収入として用いることがあります。

・自営業者のケース

自営業者の基礎収入も、事故前の実際の収入を根拠として求められるため、事故前年度の確定申告(所得)額に租税公課・減価償却費・青色申告特別控除額などを加算した金額を基礎収入とすることが一般的です。そのため、確定申告をしていない方や事業を始めた直後に事故に遭った方などは、参考となる確定申告書がないため基礎収入の算定で争いになり易いといえます。このような場合には、確定申告書以外の帳簿や従前の仕事などから基礎収入を合理的に算定できないかを検討することになります。

・主婦(主夫)のケース

主婦(主夫)の行う家事労働にも金銭的な価値を認め、逸失利益を請求することができます。パート・アルバイトをしている方でも自賠責保険では週の平均労働時間が30時間未満であれば家事従事者(主婦・主夫)の扱いをするため、このような兼業主婦(主夫)であれば実務上も逸失利益が認められる可能性が高いといえます。主婦(主夫)の逸失利益の計算においては、賃金センサス(産業計・企業規模計・学歴計)女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎収入とします。なお、実務上は、主婦(主夫)であっても高齢者の場合には基礎収入が減額されることが多いといえます。

・子供や学生のケース

子供や学生は通常実際の収入がないため、賃金センサス(産業計・企業規模計・学歴計)男女別全年齢平均の賃金額を基礎収入とするのが原則です。被害者が大学在学中など大学に進学する可能性が高い場合には、大卒者の平均賃金を基礎収入とする場合もあります。なお、子供や学生(18歳未満の未就労者)の場合は、就労の始期(原則18歳)以降についてのみ、後述する労働能力喪失期間が認められるということに注意が必要です。

・高齢者のケース

年金以外に収入がない高齢者のケースでは、就労の蓋然性がない限り逸失利益は認められません。ただし、前述のとおり高齢者でも家庭内の家事労働を行っていた場合は、主婦(主夫)としての逸失利益が認められる場合があります。

・失業者のケース

失業者は収入がないため、逸失利益は基本的には認められません。ただし就職活動を行っていたなど、労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性がある場合は、逸失利益が認められることがあります。その際の失業者の基礎収入は、前職の給与などを参考に決められます。

労働能力喪失率

労働能力喪失率は、後遺障害の影響で事故前と比べてどれだけ労働能力が低下したかを表す値で、自賠責保険の支払基準が後遺障害等級ごとに数値を定めています。後遺障害14級については5%とされています。

この数値は任意保険会社との示談交渉や訴訟でも使用されますが、後遺障害そのものの内容や、職種と後遺障害の関係(具体的な業務にどの程度の支障が生じているか)などにより、これとは異なる労働能力喪失率が適用される場合もあります。もっとも、任意保険会社との示談交渉においては、実務上、後遺障害14級の場合の労働能力喪失率を5%として処理することがほとんどかと思われます。

労働能力喪失期間

労働能力喪失期間とは、後遺障害による労働能力の低下がどれくらいの期間続くのかを表した年数のことを指します。労働能力喪失期間は、原則として症状固定日から67歳までの期間として求められます。なお、後遺障害14級で最も多い9号の場合、労働能力喪失期間は3年から5年とされることが一般的です。

ライプニッツ係数

ライプニッツ係数とは、逸失利益を計算する際に、中間利息を控除するために用いる数値です。交通事故の賠償金は基本的に一括で支払われるところ、逸失利益については、将来受け取るはずであった収入を先取りすることになります。そのため、本来の受け取り時期までの間に発生する利息(中間利息)の控除を行う必要があるのです。5年分の逸失利益を計算する場合、5を乗じるのではなく、5年のライプニッツ係数である4.5797を乗じることになります。

裁判所基準(弁護士基準)を用いた方が受け取れる賠償金の額が増える

後遺障害等級14級が認定された場合は、認定されない場合(非該当)に比べて賠償金が飛躍的に増額します。その理由は、これまでにご説明したように、後遺障害慰謝料と逸失利益が認められるためです。
この点、相手方の任意保険会社は、14級の後遺障害が認定された場合に、後遺障害慰謝料と逸失利益の合計として75万円という金額(自賠責基準)を提示することが多いはずです。そのため、通常は、弁護士が裁判所基準(弁護士基準)を適用して示談交渉をすることによって、賠償金を大きく増額することができます(被害者の方に過失がある場合は別途の考慮が必要です)。
なお、醜状痕(14級4号・5号)や歯牙欠損(14級2号)は一般的に労働能力には影響がないと考えられるため、被害者の方が携わる仕事(具体的な業務)との関係で逸失利益が認められない蓋然性が高いといえます。そのため、例えば醜状痕のみで14級の後遺障害が認定された場合には、異議申立てによって神経症状での認定(14級9号)を狙うことも検討すべきであり、このような場面でも弁護士の専門的な知見が役に立つといえます。

裁判所基準(弁護士基準)を用いて示談交渉を行うには、弁護士へのご依頼が必要となります。弁護士費用特約にご加入されている場合は、弁護士に委任をする際の弁護士費用や法律相談費用などが補償されますので、ご自身の保険をご確認することをお勧めいたします。特に、同居のご家族が弁護士費用特約に加入している場合や、未婚の被害者の方が別居の親の弁護士費用特約を利用できる場合などもありますので、どうぞご注意ください。

まとめ

後遺障害等級14級は、後遺障害の中で最も低い等級ではありますが、その認定を受けることは全く簡単ではありません。交通事故による傷病で最も多いと思われる頚椎捻挫・腰椎捻挫については、頚部痛・腰部痛などの神経症状が残存した場合に、14級9号の認定を受けられるか否かが問題となってきます。
この記事では後遺障害等級14級に認定されるための要素を紹介してきましたが、それらのいずれかが欠けていると、認定を受けられる確率は非常に低くなるといえます。
後遺障害等級14級の認定について疑問や不安がある場合は、弁護士に相談してみることをおすすめします。

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投稿者: せせらぎ法律事務所